松沢呉一のビバノン・ライフ

ワクチンの必要性が大幅に落ちる可能性—T細胞による細胞性免疫[下]-(松沢呉一)

スウェーデンの戦略とカロリンスカ研究所—T細胞による細胞性免疫[中]」の続きです。

 

 

スウェーデンの研究結果に期待するしかない

 

vivanon_sentenceT細胞の免疫がどの程度持続するのかにもよるのですが、新型コロナウイルスに曝露すると、発症せず、あるいは発症しても軽症で済み、なおかつコロナウイルス対応型T細胞が維持されますので、スウェーデンではこれ以降も当分低い数値が維持されて、第二波は来ないのではなろうか。今まで通りでいいのです。正確にはスウェーデンは今月から規制をゆるめているので、今まで通りどころか、コロナ以前に完全に戻りつつあります。

それに対してよその国では、「ウイルスをゼロにする」という戦略をとってしまったために、すでに細胞性免疫は消えつつある可能性が高い。今まで通りの戦略をとる限り、国民は不自由を強いられ、経済が停滞し、自殺者が出続け、マスクをし続け、ウイルスに脅え続けるしかない。

「なんてこったい」ってことですが、いまさらどうしようもないし、何ぶんにも仮説であって、実測のデータをさらに揃えない限り、確定しない。しかし、各国、そう簡単に研究費は捻出できない。これについてはどこの国も小規模な研究に留まっているとの話がどっかの記事に出てました。製薬会社も大学もそんな金にならないことより、ワクチンや治療薬の開発にリソースを割いた方がいいですから。

そんな中で、今のところ公表されている範囲ではスウェーデンのカロリンスカ研究所がもっとも進んでいて、スウェーデンはこれ以降、さらに力を入れそうです。自分たちの選択の正しさを、細胞性免疫説から裏づけたいでしょう。結果論でしかないとしても、スウェーデン方式を失敗だと決めつけた各国政府や各国メディア、WHOに一泡吹かせたいはずです。

「スウェーデン方式は失敗して、方向転換決定」という記事を見て、「どれどれ」とスウェーデン国内の報道を読んだら、そんな話はどこにも出ておらず(集会の人数制限を前より厳しくするなどの細部の調整をしていたことはありますが、方向転換ではない)、そのたびに私だって腹を立てていたように、スウェーデンでもデタラメ書かれて腹を立てている人たちが当然います。

スウェーデンのニュースサイトを見ていたら、国外メディアがここに来て次々と手のひらを返してスウェーデン方式を誉め称えていることを取り上げているのですが、「前はスウェーデンの戦略を批判していた」とそのメディアの過去記事をリンクしていて笑いました。決して忘れていないのです。そりゃそうです。

スウェーデンでは予防対策や予防のための研究にリソースを割く必要がないということもあって、今後も新型コロナにおける細胞性免疫の研究はスウェーデンがトップを走りそうです。

※2020年9月19日付「THE SUN」 「アンデシュ・テグネルはロックダウンを拒否したクールな国民的ヒーロー」としています(記者がそう考えているのではなく、「スウェーデンではこうも英雄扱いされている」という内容ですが)。4ヶ月前に、「抗体獲得率が低すぎて、スウェーデンの集団免疫は成立しない」と批判した同紙の記事はこちら(笑)。さすがに筆者は同一ではありません。この段階では細胞免疫説なんてほとんどまだ浮上していなかったですから、集団免疫は当面達成できないと判断したのはやむを得ないとして、スウェーデンは集団免疫を目的としていたのではないですから、その点については訂正すべきかと思います(「目的としている」と「結果そうなることを予想している」の違いがこうも区別できないもんか)。

今回の記事はアンデシュ・テグネルに取材しているのですが、テグネルの言葉はあんまり反映されておらず、いかにスウェーデン国内で支持が高く、ロックダウンしなかったことを歓迎している人たちが多いのかを書いていて面白い。また、自国たるイギリスは当初ロックダウンする予定ではなかったのに、パニックになってロックダウンしてしまったことを筆者は残念がってます。これは正しい評価でしょう。イギリスだけでなく、多くの国の政府やメディアや国民がパニックになって判断を誤ったのです。しかし、この記事もやっぱりスウェーデン方式によって多数の死者が出たように読めてしまいます。そこが惜しい。「ビバノン」の方が正確です。

 

 

ワクチンは最少でいい

 

vivanon_sentence手遅れの部分が多いですけど、世界にとって朗報のはずです。

相当数の記憶は消えていそうなので、すでに東アジアの「特権」もなくなっている可能性がありますが、もし集団免疫に達成している国があるとしたら、今までのように神経質になる必要はない。むしろ神経質にウイルス対策をするとウイルスの曝露がなくなって免疫効果が落ちます。昔っから、清潔すぎる環境はかえって重大な病気を招くと言われていたことが見事に立証されつつあります。軽い風邪をいっぱいひいておいた方が死なない(可能性がある)。

 

 

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