松沢呉一のビバノン・ライフ

小中学生も参加しているインドネシアのプロテスト—ポストコロナのプロテスト[43]-(松沢呉一)

ミルクティー・アライアンスとインドネシアのプロテスターたち—ポストコロナのプロテスト[42]」の続きです。

 

 

 

コロナ禍との関係

 

vivanon_sentenceインドネシアの場合、コロナ禍があろうとなかろうと激しい反対運動は起きたでしょうが、コロナ禍によってデモ参加者が2割増しになっていようと思います。

新型コロナ対策とこのプロテストは大きく3点で関係していると私は見ています。

ジョコ・ウィドド(Joko Widodo)大統領は全面的なロックダウンの要請を拒否して、大規模社会制限(PSBB/Pembatasan sosial berskala besar)という対策をとりました。結局はロックダウンのことなのですが、感染拡大が疑われるエリアを行政区分単位でロックダウンする方法で、違反は日本円で最大70万円、最高懲役1年ですから、けっこう厳しい。

大規模社会制限だのPSBBだのと言っても馴染みがないので、以降、「ロックダウン」とします。

現在各国で第二波対策としてとられている方法に近くもあって、極力ダメージを減らす意味ではそんなに間違ってない。

しかし、感染者を抑えることはできず、第一波も第二波もなく、感染者、死亡者とも増大。

 

2020年10月11日付「worldometers

 

 

なぜこれだけ拡大したのかについては全面的なロックダウンをしなかったからだとして大統領の責任とする意見も強いのですが、感染者数はどうでもよくて、問題は死亡者が多いことであり(1万人を超えている)、「おそらく院内感染だろう」と目星をつけたら、やはりそうでした。医師が107名も亡くなっています。当然患者にも感染し、死にやすい層が死んでいる。

モスクが閉鎖されなかったことも大きそう。ラマダンの際には政府から各モスクへの依頼があって、ほとんどのモスクは閉鎖したようですが、それ以外の期間は開いていたようです。年寄りや病人も集まる場であり、声も出します。天井の高い大きなモスクならともかく、換気の悪い小さなモスクでは一発でクラスターが発生しましょう。ここからの感染拡大が相当あったのではなかろうか。

もうひとつは人口過密地域が多いってことです。インドネシアの人口は2億6千万人。都市部はどこに行っても人がいっぱいで、住環境もよくない。

全国一律のロックダウンではなかった分、少しはましだったのだと思いますが、景気は歴然と後退し、失業者は600万人に膨れ上がります。

景気後退と失業者対策として、ここに来て法案を早く可決させたいと焦った政府のやり方が反発されました。

プロテストが激化した二点目。法案に早くから反対していた労働組合は、ロックダウン以前から感染防止を考慮して自ら行動を中止するなどしてきて、また、ロックダウン以降はデモや街頭宣伝ができなくなり、十分な反対ができなかったとの思いがあります。その思いの上で、最後は拙速に事を進めた政府に対する不満が爆発。

時間がありましたから、議論はそれなりにはなされてきたようですが、何ぶんにもこの改正が及ぶ範囲はあまりに広くて、議論も長引きます。また、以降見ていくように、インドネシアにおいてはデモ闘争は決定的な武器であり、これを封じられたのは痛打なのです。

三点目はロックダウンそのものに対するストレスや失業を筆頭とした生活困窮が加わりました。労働組合は平和的なデモをやっていて、暴れているのはおもに学生たちです。ここはインドネシア独特の特性があるみたいで、コロナ以前から学生たちは暴れがちですが、火炎瓶のガソリンが2割増しくらいにはなってましょう。

※2020年7月23日付「Kompas.com」 Kompas.comはインドネシアでもっとも影響力のあるネットニュースで、何を調べていても、検索でひっかかります。この記事は「景気後退に備えよ」と題され、すでに失業者が増大し、犯罪も増加し、新たな貧困層が創出されていく中、どういう準備が必要かを説いたもの。

 

 

なぜプロテスターの年齢が低いのか

 

vivanon_sentence今回のプロテストは大学生や高校生も多数参加していて、とくに暴れているのは学生たちで、逮捕されたのは大半が十代と報じられています。

それどころか、小学生みたいなのまで投石しています。

 

 

 

 

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