はしか(麻疹)の死亡者が増加—ノーベル賞委員会のメッセージを真摯に受け取る[上]-(松沢呉一)
ノーベル賞委員会の「自国第一主義」批判
国連世界食糧計画がノーベル平和賞を受賞したのは、コロナで露になった自国第一主義に対するノーベル賞委員会による批判が込められていたわけですが、その思いはあんまり伝わってないんじゃないですかね。
2020年10月10日付「産經新聞」
産經新聞はタイトルでもこのことに触れていますし、本文でも詳しくこの意図を説明しています。
WFPの試算によると、新型コロナによる世界的な景気後退などの影響で食料不足が加速し、今年末までに昨年の2倍近い2億6500万人が飢餓状態に陥る恐れがある。レイスアンデルセン氏は会見で、WFPへの資金拠出を減らさないよう国際社会に呼びかけた。WFPの活動資金は大半を各国政府の拠出などに依存しており、過去に資金不足からシリア難民への食料支援の中断に追い込まれたことがあるためだ。
レイスアンデルセン氏が国際機関への支援を強調したのは、「最近、多国間主義が尊重されていない」(同氏)との危機感が広がっているためだ。
ベーリット・レイスアンデルセン(Berit Reiss-Andersen)はノルウェー人です。
しばしばこの自国第一主義はトランプ政権を指すものされていますし、ノーベル賞委員会もおもにそこを意識しているんでしょうけど、「これはトランプ批判ね」で終わっている人たちがいそうです。
トランプを批判すれば済む問題ではありません。むしろトランプのWHO批判については、自国第一主義の中国批判でもありますから、正しい部分を含んでいます。
WHOの「中国第一主義」は、台湾に対する処遇を見れば明らかです。また、WHOの「健康第一主義」が「世界的な景気後退」を招いたことも間違いない。とくにアフリカの多くの国において、ロックダウンは防疫という点で効果があまりなく、ロックダウンしなかった方がまだましでした。
極力経済後退を招かない方法をとるべきだったのですが、WHOは経済や各国事情をまるで考慮しないで、中国を手本にウイルスを制圧できるかのような幻想をばらまきました。それに従って各国政府は経済後退する方法をとってしまったことにより、餓死する危機に瀕している人々の数を1億人以上上乗せしてしまいました。
ノーベル賞委員会が世界食糧計画に平和賞を授与したのはそこを知らしめるためですが、問題はここに留まるものでもありません。
ノーベル賞委員会の考えに忠実な私
一個人が考えてもしょうがないことであって、政府の役割ですけど、政府は国民の意識を反映するわけで、国民が自分のことだけ考えていたら、政府は自国民のことだけ考えますよ。
国連の事務局長だって感染した可能性があっても検査せずに自己隔離しただけだったのは、それ自体、私は適切だと思います。私もそうします。しかし、さんざん検査検査と言い続けてきたWHOの代表としては、立場上おかしくないかって話。
そのおかしな主張をWHOがやってきた結果、「検査しろ」とワイドショーに煽られた人々が騒ぎ、「自粛しろ」と自粛厨が騒いでいる時に、私は「こんなことをしていたら、店は潰れる、会社は潰れる、失業者は増え、自殺者が増える。先進国の経済的余裕がなくなると、援助金も出せなくなり、人員も出せなくなり、その結果、アフリカのサハラ以南エリアではHIVを筆頭とした感染症で死ぬ人が増大するぞ」と言っていたわけです。「ビバノン」のバックナンバーでご確認ください(この辺とか)。
ノーベル賞委員会の鑑みたいな存在ですよ。ノーベル賞くんないかな。
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