COVID-19対策に集中した結果、HIVの死亡者も結核の死亡も急増—ノーベル賞委員会のメッセージを真摯に受け取る[下]-(松沢呉一)
「はしか(麻疹)の死亡者が増加—ノーベル賞委員会のメッセージを真摯に受け取る[上]」の続きです。
UNAIDSの報告書「Seizing the Moment」
COVID-19の影響でHIVの対策ができなくなり、感染者が増え、死亡者も増えています。
以下は2020年7月にUNAIDS(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)が出した報告書「Seizing the Moment」です。
大部の報告書、かつ専門的な内容なので、イントロダクションとサマリー部分+αしか読んでないですが、「何十年にもわたるエイズ対策の蓄積がCOVID-19の対策にも活かされている。しかし、そのことが十分に理解されないまま、COVID-19に多くのリソースを割くことで、エイズ対策は十年以上後退する」といった内容です。
不足するリソースは人的なものもあるのですが、この報告書ではもっぱら経済的リソースから説明していて、各国、とくにサハラ以南のアフリカ諸国では、どういう資金がどのくらい費やされて来たのか、それが今後どうなるのかを詳細に説明しています。
経済停滞でエイズ死者が増加する
世界のエイズ対策は、2030年に死者を年間50万人まで抑えることを目標にして、その目標に着々近づいて、ここ数年は年間死者100万人を切っていました(ここに出した図版は、同報告書からエイズの死者数推移を男女別にグラフにしたもの)。
しかし、ピーク時には250万人に達していて、リソースが不足することで、そちらに向って逆行します。ピークの数字にまでは戻らないとしても、これから数年間は100万人以上で死亡者数が推移しそうです。
この報告書では「ロックダウンをしなければよかった」とまでは言っていないと思いますが、現実に経済停滞によって、国内の対策費、国外の援助金のどちらも確保が難しくなることは間違いない。
他の感染症でもそうですけど、対策には金がかかります。とくにHIVは発症するまで感染に気づきにくく、通常の生活をし続けることが可能です。だから検査をする必要があるわけですが、検査をするように呼びかけるだけで金がかかります。無料で検査ができるようにすれば検査費や人件費がかかり、予防啓発にも金がかかり、コンドームの配布にも金がかかります。
金の問題だけでなく、ロックダウンで検査どころではなくなって、ロックダウン解除以降も院内感染が怖くて検査に行く人の数が減っていますから、早期発見が難しくなっていて、発症する人が増えるのは必至です。死にます。感染している人たちは定期検診を受け、薬を飲み続ける必要がありますが、これも疎かになります。死にます。
HIVの薬がCOVID-19の患者に投与されているために医薬品不足が生じているとも報じられています。一時、HIVの薬がCOVID-19に効果があるって話が出ていたように、薬がないために他の病気に使用している薬を投与することが行なわれていたようです。その結果、本来使うべき人たちが使えなくなる。死にます。
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