松沢呉一のビバノン・ライフ

孤独に行動し、思考することで「私」でいられる—高嶋政宏著『変態紳士』[中]-(松沢呉一)

自由であるとはどういうことか—高嶋政宏著『変態紳士』[上]」の続きです。

 

 

 

変態は独りで極めるべし

 

vivanon_sentence高嶋政宏著『変態紳士』第一章に「変態おひとりさまのススメ」という文章があります。

高嶋政宏はどういうタイプの変態かというと、Sだと自認して緊縛講習にも行きながら、マゾ的資質も強く持ってます。健康マニアでもあるのですが、だいたいこのタイプはマゾ的で、気づくと自分を痛めつけるくらいに体を鍛えて健康を害します。なにより妻に対する思いがマゾです。

SMに触れて、そういう自分を探究していくのですが、そういう場合は一人で行動することを勧めています。彼自身、初めてSMバーに行ったのも単独。講習会に参加したのも単独。ここは大事な教えです。

たとえば仕事のあと毎晩同僚5人で居酒屋に行って仕事の延長の会話をして時間を潰すことになっているとします。この5人はそれぞれ「こんなことより家で映画を観た方が楽しい」「こんなことよりアイドルのライブに行った方が楽しい」「こんなことより出会い系で相手を探した方が楽しい」「こんなことよりゲイバーに行った方が楽しい」「こんなことよりSMバーに行った方が楽しい」と思っていたとしても、5人で行動することによって共通点で妥協し、それぞれの楽しみを殺しています。

人と行動をするってことはそういうことであり、他に楽しいことがあることにも気づけなくなり、体裁ってことを考えてしまうため、自分を晒せなくなります。

マゾヒストたち』にも登場するように、会社の先輩にSMクラブに連れていかれて、先輩よりも自分がハマっていく人も現に存在しますし、接待で連れて行かれたSMバーに次から一人で行く人もいますが、その機会を待っていると行きつけない人の方がずっと多い。

一方で高嶋政宏は先達に話を聞くことの大事さもさまざまなジャンルで語っています。初心者に比べると、何十年もやっている人の方が多くの体験を重ねている分、知恵をもっています。その知恵は尊重する。しかし、鵜呑みにはせず、自分でもやってみて、自分に合うか合わないかを確認して選択していく。決して盲従はしていない。

素晴らしいですね。

※「快楽を求めることを決して諦めない人たち—マスクよりもフェイスシールド[2]」で取り上げた青山夏樹さん主宰Royal Blueのパーティより。女王様たちはフェイスシールドをつけ、M男さんたちはマスクをつけている上に、女王様たちが対面するのはたいてい尻ですからご心配なく。こういうところに同僚や友人、隣人と行っても楽しめるわけがない。

 

 

下ネタが好きな高嶋政宏

 

vivanon_sentenceその結果、自分に残ったもの、あるいはその過程にあるものを『変態紳士』では語っています。

表現物についての嗜好は私に近くて、音楽で言えば私も「プログレ→パンク/ニューウーブ」という流れです。これは時代の流れがそうだっただけとも言えますが、BBG48が好きなのも私と一緒。下品な下ネタが好き。

以下は2020年1月11日に行なわれたBBG48のラストライブはおいおい教バンドとの競演。

 

 

 

 

最後までサイテー。でも、対バンがいなくなる元氣安の悲しみにちょっとジーンとした。

高嶋政宏と具体的に重なるのは変態が好きなことと音楽についてくらい。熟女が好きというのも重なるか。元氣安も。

そこはそんなに詳しく書いていないので、どの程度の熟し方を指すのかわからないですが、この点については私は腰つきが甘くて、老女でもイケる元氣安の足元にも及ばず、私は「若い熟女」が好きです。たぶん高嶋政宏とも好きな年齢層は重ならないですけど、「若くてかわいい子に興味がない」というのは同じ。私は若くてかわいい男の子にはちょっと興味がありますけどね。

そのくらいしかかぶるところはなくて、高嶋政宏は乳房にも乳首にも興味がなく、尻も興味がなく、興味があるのはその奥の肛門。私は肛門より乳房や乳首が好きです。高嶋政宏は顔の美醜にもこだわりがなく、こだわるのは「変態であること」の一点。潔いなあ。この場合はM女としての変態の意味ですが、私は美形女王様が好きなので、真逆です。

といったように細かく見ていくと全然違うのですが、それでも姿勢みたいなもの、癖みたいなものは理解できるし、私と共通するところも多い。

 

 

next_vivanon

(残り 1783文字/全文: 3646文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ