アンチ・ロックダウンを批判しながらBLMを肯定する論理—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[4]-(松沢呉一)
「自論に合致する事実のみを拾って他は無視する手法—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[3]」の続きです。
屋外でのリスクは最初から低いとされていた事実を無視
ニューズウィーク日本版の「コロナで民主主義が後退する」という予想が当たらなかった3つの理由と題された記事の問題点の次。
この文章の原文でもそうなっているのですが、なぜ筆者個人の予想が外れたのかの理由のひとつを以下のように説明しています。
日本版からの引用。
1つ目は疫学上の理由だ。今年5月に起きたジョージ・フロイド事件はこの夏、米各地で抗議デモを引き起こし、それによる新規感染者の激増が懸念された。だが実際には、大規模な集会も屋外でマスク着用の上で行えば、比較的安全だと判明した。
日本でも十分に報じられていますから、米国は「ポストコロナのブロテスト」では取り上げないと最初から決めていたため、気にはなっていたのですが、これを読んでやっと私は米国のリベラル層が、ロックダウンとBLMとの帳尻をどう合わせたのかわかりました。
ロックダウンが解除もしくは緩和されたタイミングだったため、ロックダウンを肯定した人たちも、BLMで路上に出たと私は思っていて、これはこれで事実として、ここに書かれたような理由から、屋外の評価に対する掌返しがあったんですね。
米国ではアンチ・ロックダウンをトランプ派にもっていかれたため、リベラル層は「ロックダウン=正義」というスタンスにならざるを得なくなったことはこれまで指摘してきた通り。だったら、BLMのプロテストもやってはいけないはずですが、BLM以降、屋外は安全なのだと。彼らの間では5月から6月にかけて屋外がやっと安全になったのです。
リベラルによるロックダウン批判の流れを作れなかった米国で、「アンチ・ロックダウンは否定」「プロテストは肯定」というふたつの相反する評価を成立させるための論がこれです。屋外は危険だと思われていたのにプロテストをしたヤツらは「ウイルスなんて存在しない」と信じるアホな陰謀論者であり、安全であることがわかってからのプロテストは賢い人たちがやる正しい行いってことです。
※FREEDOM HOUSE「FREEDOM ON THE NET」 文章とは直接関係ないのですが、「パンデミックの年を振り返る」で取り上げようと思って忘れていた図版です。インターネットの自由度を示すマップで、これを見ていて、「あれ?」と思ったのは韓国が自由な国(緑)になっていないことです。なんでだ? どこまで厳密に運用されているのかわからないですが。韓国はポルノのみならず、北朝鮮礼讃や政府批判に対しては厳しいんですね。放置すると北朝鮮の工作員がデマを交えた政府批判をやるといった事情があるのかもしれないですが、政府批判を封じるのでは表現の自由はない。パンデミックにより、流言飛語を名目としてインターネット規制、実質の政府批判規制をやった国はけっこうあります。ウイルスを名目とした表現規制、報道規制という意味でも、民主主義の後退は明らかでしょう。
1月の段階で屋外感染のリスクは低いと指摘されていた
しかし、屋外は相当に安全であることは早い段階で言われていたでしょ。
警察ともみ合いになることもありますし、壇上でスピーチする人の唾液が口や目に入ったり、全体が合唱するような時には唾液が飛びますから、感染しないというわけではなく、だから、イスラエルでは、距離を維持した集会が開かれていましたし、私自身、集会に行くならマスクやフェイスシールドをつける旨を書きつつ、集会を続ける姿勢に共感してました。そのあとイスラエルでは全面禁止になってしまいましたが。
昨年末の上野アメ横買物集会にあれだけの人がいたのは、屋外ということも関係してましょう。その判断は間違ってない。
にもかかわらず、多くの国で屋外の集会が禁止され、現在も規制は続いています。つねに移動しているため、さらに感染リスクの低いデモまでが禁止され、その違反で逮捕された人々が多数出たことは反民主的ではないのか?
筆者のジョシュア・キーティングさんは「多数が集まるのは危険だから、集会をすることもできず、民主主義は崩壊する」と考えていたわけで、「あんたが間違っていたってだけ。最初から屋外はリスクが低いって多くの人が言っていたので読み直せ」って話。反トランプという姿勢にとらわれたために反民主主義的施策を肯定するしかなくなったからって、事実関係をねじ曲げてはいけない。
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