松沢呉一のビバノン・ライフ

メルケルがTwitterを批判して「表現を規制できるのは法に基づいた権力者だけである」としたことの意味をさらに考える-(松沢呉一)

 

 

メルケル発言をめぐる日本での誤解について

 

vivanon_sentence時間が経ってしまいましたが、「ポストコロナのプロテスト」にも関わることなので、取り上げておきます。

この記事。

 

2021年1月11日付「日刊スポーツ

 

共同通信の配信記事で、日本経済新聞なども同じ内容です。

これだけを見ると、メルケルが表現を規制することを批判しているようですが、時事通信ほかの記事を見ると、真意が理解できます。

 

 

2021年1月10日付「時事通信

 

 

最近私は「現地主義」で報道を読むようにしています。現地記事は政府寄りばかりで頼りなかったり、言語によっては自動翻訳の精度が低かったりもするため、BBCやDW、CNNも多用してますが、国外について日本のメディアは圧倒的に弱いです。記事にならないことも少なくない。需要がないのでそうなるのは当然であって、メディアだけの問題ではないので、そこに不満をぶつけてもしょうがなく、他国の報道を読めばいいだけ。

以下は独シュピーゲルの記事の自動翻訳。

 

2021年1月11日付「SPIEGEL

 

こちらはフランス経済相の同様の意見も取り上げていて、よりわかりやすく「一国の代表者のアカウントを一企業の判断で使えなくするのではなくて、政府が法に基づいてやるべきことである」という内容であることがはっきりします、

自動翻訳はずいぶん精度が上がっていて、それでも誤訳は避けられないですけど、自動翻訳を使い慣れてくると、どういう言葉に誤訳が出やすいのかということもわかってきます。この記事で言えば日付の月日が入れ替わっているとか。自動翻訳で報道を読むのはオススメです。

 

 

ヨーロッパ方式と米国方式の違い

 

vivanon_sentenceこの話はヘイトスピーチについての米国とヨーロッパの違いをわかっている人は容易に理解できましょう。

表現の規制は、憲法上、極限られた条件でしかできないので、ヘイトスピーチ規制法を制定できないのが米国。その分、いわば社会規範に基づいて、私企業が規制をしたり、それによってその人物を雇っている私企業が解雇などの処分をしたり、アンティファが殴り掛かったりして、抑制する。また、人種的憎悪に基づく殺人、放火などの重罪についてはヘイトクライム法によって科料を加重する。

対してヨーロッパではヘイトスピーチを法で罰する。ドイツはその筆頭の国であり、御存知のようにハーケンクロイツを公道で振り回せば逮捕され、ホロコースト否定論を公然と主張すれば逮捕されます。

どっちもいい点、悪い点があって、どちらがいいかは簡単には言えません。

たしかに法に基準が明示されない方法で処分がなされると、一企業の恣意的判断によって削除や凍結がアバウトになされかねず、私がFacebookに出した100年前のパンチラ写真が、ガイドライン違反ではないにもかかわらず削除されて、文句をつけても聞き入れられず、泣き寝入りするしかないようなことも起きます。

また、そういった基準のないところでは、考えることが嫌いな人々が、ただ気に食わないからとネットでリンチにして、職場にも嫌がらせをすることにもなりやすい。

そういった行き過ぎが起きやすい点はありますが、SNS上の処分であればたかが削除や凍結、アカウントのBANであって、捕まることはないし、罰金刑になることも懲役刑になることもありません。パンチラ写真削除の恨みは一生忘れないですけど、コンピュータが機械的にチェックして、アルバイトかなんかが適当に処理しているんでしょうから、まあ、しょうがないかと諦めもつきます。

しかし、これが法であったら、SNSの発言で懲役刑になるかもしれない。怖いですよ。まして、権力者がその法を濫用したら中国みたいになります。

 

 

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