松沢呉一のビバノン・ライフ

拙速なクオータ制導入は失敗しやすい—ウガンダとチュニジアのクオータ制[4]-(松沢呉一)

すぐに元に戻せる方式であることがクオータ制の条件—ウガンダとチュニジアのクオータ制[3]」の続きです。

 

 

ナチスの女性起用と同じ考えか?

 

vivanon_sentenceおそらくムセベニ政権にとってのクオータ制は権力集中のために都合のいい制度であって、なおかつ民主主義のポーズをとれる申し分のないギミックです。

その考え方であれば、女性議員はただの数合わせですから、活躍の場を与えて、実績を蓄積させるなんてことにはならない。自分の意見などない存在でいい。大統領や党の言いなりでいい。知名度があれば十分。ウガンダにSPEEDのようなアイドルがいれば、そこから引っ張ってくればいい

ナチスが表面上、婦人参政権を維持し、女性を起用したのと同じです。

ナチスドイツでもそうだったように、女性有権者だからと言って戦争を避ける投票をするわけではないし、人種差別を避ける投票をするわけでもない。国や時代、選挙の争点によっても違いましょうが、投票先は男と変わらないことも多いものです。しかし、同じ女性を応援したいという感情が強い人たちがいるので、クオータ制を戦略的に取り組めば党に有利になりやすいはず。

どういう方法であれ、環境作り、人材育成をやらない限り、ロクなことにはならないことがウガンダの例から読み取れましょう。

その点、チュニジアではUN Womanのバックアップで、環境作りから始めているので、その成果は少しは出ているでしょうけど、後退をしてしまっているように、数年であっさり結果が出るようなものではありません。

※「Polish elections demonstrate the limitations of gender quotas as a tool for increasing female representation」 ポーランドでは2011年にクオータ制が導入されています。選挙制度がよくわからないのですが、各党候補者の35パーセント以上を女性にするというもので、これによって女性候補者は倍増、しかし、当選者はそれに伴っては増えませんでした。ブラジルと一緒。その理由をボーランド大学の研究者がまとめていて、有権者は実績のある人を求めるのに、そんな人材を十分には探せなかったためだとしています。拙速な方法をとるとそうなりますよ。ちょっとずつしか増えないのです。

 

 

クオータ制は男女差が少ない場合に向いている

 

vivanon_sentence「クオータ制で目標に達したら元に戻すことが容易か」「クオータ制の導入で選挙制度への影響が出ないか」ということを考えた時に、もっともスムーズなのは、個人にポイントを加算する方法です。例えば女性候補は、得票数の10パーセントを加える。この方法であれば、微調整が可能ですから、10パーセントで足りなければ15パーセントにし、増え過ぎたと思ったら5パーセントに減らす。完全に廃止することも容易であり、ウガンダのような二重の枠組みにする必要もない。名簿方式にするために、選挙制度を根本からいじる必要もない。

この方式の最大の難点はクオータ制が不平等、不公正な方法であることがはっきりしてしまうことです。

トップが100票で落選し、95票の次点が当選する。おかしいと思う人が多いでしょうし、落選した方はたまったものではない。

でも、もともとクオータ制はそういう制度なのですから、それをそのまま見せているだけであって、各国が「どうごまかすか」に腐心しているのを見ると、なんとしても汚職をごまかそうとしている政治家を見るようです。

だから、そんなことをやるべきではないというのが私の考えですが、もしやるのであればうまくやった方がよくて、比例代表の名簿方式が妥当だろうとは思います。

 

 

next_vivanon

(残り 1735文字/全文: 3282文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ