松沢呉一のビバノン・ライフ

潜在的エゴティズムは好悪の感情のみならず生き方までを規定する可能性—男の名前・女の名前[13]-(松沢呉一)

SNSで強化される自己愛—男の名前・女の名前[12]」の続きです。

 

 

 

潜在的エゴティズムと自分の名前に対する愛着

 

vivanon_sentenceで、名前です。数々の実験では、名前でも潜在的エゴティズムが起きるということになっています。どうしても私は「そこまでのことが本当に起きるのかなあ」との疑問を抱いてしまっていたのですけど、実験結果を見ると、起きているとしか思えない。

女っぽい名前より男っぽい名前の方が裁判官として出世するという研究—男の名前・女の名前[6]」でリンクした「Name-Letters and Birthday-Numbers: Implicit Egotism Effects in Pricing」では商品を購入する際に、自身のイニシャルと同じものを選択するという内容で、これも疑ってしまったのですが、追試もさまざま行なわれているので、疑いようがない。

このデータを出すのは簡単ですから、小学生が夏休みの課題でやるといいと思います。

よくYouTubeのアンケートで、「どの商品を使ったことがありますか」という質問がなされますが、この回答と名前のイニシャルとの間に関係があるかどうかを調べれればいい。Googleは膨大なデータを持っているので、消費者がどう商品を認識し、選択するのかまですでに分析していそうです。

実際に使った結果として、性能、品質といったところで選んでいることが多いでしょうから、そのノイズをなくすために、「当社では新しい石鹸を発売します。その商品名としてどれがいいと思いますか」と聞いてもいい。「どれがいいか」を考えているつもりでも、無意識に自身の名前と近いものを選択してしまうわけです。「誰もがつねにもれなく」ではないですけど、数パーセントの差が出る。

だったら、ヒットした商品のイニシャルと、人名のイニシャルとの間に相関があるのかを調べるだけでもいいのかとひらめきましたが、面倒くさいので夏休みの小学生に任せます。

※実際のYouTubeのアンケート。Googleは的確なターゲットに質問をしていることがわかります(笑)。どれにしようか迷っているうちに時間切れになりました。イニシャルがかぶっていないために私は迷ったのです。

 

 

漢字文化での潜在的エゴティズムの出方

 

vivanon_sentence下にSSを出したPelham, B. W., Mirenberg, M. C., & Jones, J. T.Why Susie sells seashells by the seashore: Implicit egotism and major life decisions.」も、「潜在的エゴティズム」をテーマにした調査です。

人は自分を肯定するがために、無意識のうちに自己の名前をも肯定する選択をし、「たとえば、ルイという名前の人々はセントルイスに住む可能性が通常より高い」といった内容。

こうなると見極めるのは難しくて、そのような数値が出たとしても、親がセントルイスに縁があってルイという名前を子どもにつけた場合、子どもは親の縁でセントルイスに住む可能性もあります。

日本人で言えば親が京都に赴任している時に生まれた娘に京子という名前をつけた場合、その後、親が転勤をしても、彼女が京都の大学に進んで、京都で就職する可能性が少しは高くなるかもしれないけれど、この場合は名前が規定するのではなく、京都で生まれた事実が影響する方が大きいように思えます。京都で生まれた事実を名前が認識させることもあるので、どこまで何が影響しているのかの判断が難しいですが。

しかし、そういった変数が影響しない実験でも名前の影響は否定できないようです。

 

 

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