松沢呉一のビバノン・ライフ

カタルーニャとバレンシアの音楽群[2]—ポストコロナのプロテスト[132]-(松沢呉一)

カタルーニャとバレンシアの音楽群[1]—ポストコロナのプロテスト[131]の続きです。

 

 

ドクトル・プラッツ(Doctor Prats)

 

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ドクトル・プラッツもバルセロナのバンド。

ひどいいじめで人格が乖離して幻覚が見えてきた少女の物語。

 

 

2018年の曲。

伏線がちりばめられていますが、まさかのエンディングでした。

なんであんな中年女が同じクラスにいるんだよ、毎年留年か。とスペインでも言われているに違いなく、考えようによっては、いじめられっ子よりいじめっ子の起用の方がリアルな世界に影響するだけにかわいそう。

リズムがバルカンぽい。どっちが先かわからんけど、スペインはヨーロッパを抜けてバルカンに直結。

ざっとこのバンドの歌詞を見たところ、ストレートな国王批判、政府批判はないのですが、この曲を筆頭に、広い意味での抵抗の歌が多い印象です。

このMVは何度も観ていて、何度観てもわからないことがあります。自転車についたオレンジの三角旗です。この映像で展開される物語において、わざわざあれをつける意味がわからない。

あれはカタルーニャ独立旗を意味しているのでは? そう思ったら、学校から離れる時の笑顔でカタルーニャ独立を主張しているように思えます。あのいじめっ子たちはフランコ政権や現政権を象徴しているわけです。

ワシも幻覚を見ているのかと疑わないではいられませんが、曲のタイトル「Caminem Lluny」を訳してみていよいよその可能性が高まりました。カタルーニャ語で「立ち去る」「遠くまで歩く」という意味。いじめをテーマにしているとすると、あまりに後ろ向きです。

歌詞にはいじめのこと、学校のことはひとつも出てこない。

 

この夜がどう明るくなるのか見ていよう

人々の声 同じことを叫ぶ声

止められなくなったら止めなくていい

この闘いは素晴らしい終わりを迎える

私たちは歩き続ける そして遠い世界まで変える

一緒に歩こう 一緒に強くなる

 

こんな感じの歌詞が続くのです。自動翻訳に手を加えたものなので、間違いがあるかもしれないけれど。

そりゃ売れると大人の事情が出てきますよ。スポンサーの顔色を窺う。地元だけを見ているわけにはいかず、独立反対の人々にも買っていただかなければならない。このMVは真意を隠すためのカモフラージュなのではなかろうか。

 

以下は今こそ通りに出ようという内容。2016年の曲ですが、今にピッタリ。

 

 

このバンドは2017年にフジロックに出ているんですね。

 

 

全然知らなんだ。

 

 

エブリ・ナイト(Ebri Knight)

 

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エブリ・ナイトはカタルーニャのアルヘントナ(Argentona)出身のフォークパンク・バンド。

 

 

Ebriはカタルーニャ語。英語のeveryと同じ意味。毎夜のナイト(night)を騎士のナイト(knight)にした言葉遊びです。バンプ・オブ・チキンの「K」みたいなもん。

 

 

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