松沢呉一のビバノン・ライフ

自殺を決定するふたつの要因—サイレント・エピデミック[14]-(松沢呉一)

「ここまで見逃していた日本の重要な調査報告書—サイレント・エピデミック[13]」はボツにしましたので、「離婚をすると自殺率が急上昇する仕組み—サイレント・エピデミック[12]」の続きです。

 

 

自殺連鎖についての分析

 

vivanon_sentence前回の記事はボツにしました。読んだ人は忘れてください。

前回取り上げた研究報告に対する疑問点を最後に書いてましたが、あの研究者の発言までを検索して検討しているうちに、さらに疑問が大きくなってきてしまいました。

その疑問点を改めて書いていたのですが、そもそも私は国内の自殺についての分析をちゃんと見ていないことに問題があって、改めて読んでいたら、より適切な分析がなされているものがありました。くどくど疑問点を書くより、こちらを読んでもらった方が早いので、前回はボツ。

以下。

 

 

 

2020年12月21日付「コロナ禍における自殺の動向 10月の自殺急増の背景について

 

これは昨年10月の自殺急増について分析したものですが、この分析でも過去の自殺者数から割り出した予測値をもとに昨年の自殺の数字を検討しています。私が前回「数字に出ているとしか思えないのに、なぜ言及がないのか」と疑問を書いていた芸能人の自殺と自殺者数増加の関係については、この分析が詳細に説明しています。

以下が結論部分。

 

 

芸能人の自殺とその報道は、この後段にある「様々な悩みや生活上の問題」や「自殺念慮」をもともと抱えていた人が自殺する契機になった、ということです。

ただし、あくまでこの分析が対象としているのは契機としての芸能人の自殺にすぎないので注意のこと。

熱心なファンの中には好きな芸能人の自殺自体のショックで後追いする人たちもいるでしょうが、大多数の人が自殺する原因は他にあります。その原因として、解雇・失業・収入減少などの経済面があり得るわけですけど、それがどの程度の大きさなのかは今のところはっきりとはわからないので、ここはペンディングするとして、ウェルテル効果つまり自殺の連鎖は、女性に偏りがあります(同時にコロナ禍での自殺の動機が女性に偏ったという要因もあり得ます)。

10月の数字は昨年の自殺者数に大きく関与しているため、このことを無視して昨年の自殺者数を語ることは無理だと思われます。

 

 

自殺のふたつの要因

 

vivanon_sentenceもうひとつこの報告書で大事な部分。

 

 

自殺の要因には、「生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)」と「生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)」の二種があります。私が「安全装置」と呼んでいるのは前者です。一般的に言う「自殺の動機」は後者です。生きるという点において前者はプラス、後者はマイナスに働く。

この差し引きで答えがマイナスになった時に人は自殺するのであり、「契機」はそこにさらにマイナスポイントを加えます。よって【「生きることの阻害要因」となる失業や多重債務、生活苦等を同じように抱えていても、全ての人や社会の自殺リスクが同様に高まるわけではない】ってことです。これは私も説明してきた通り。「強い安全装置」が完備している人はそうそう死なない。

 

 

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