松沢呉一のビバノン・ライフ

安全装置を元に戻すことがもっとも有効な対策のはず—サイレント・エピデミック[16](第一部最終回)-(松沢呉一)

コロナ禍で変質した安全装置—サイレント・エピデミック[15]」の続きです。

 

 

安全装置における性差

 

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ここまで見てきたように、「安全装置」の変質がコロナ禍の自殺の背景にあることは間違いないだろうと思います。

このことは若年層の自殺にも当てはめることが可能です。生徒・学生は自殺の動機になる健康問題とはほぼ無関係です。勤務関係も無関係。家庭問題は増加しているケースもありつつ、減少しているケースもありましょう。男女問題も同じです。

大人でもコロナ禍で会う機会が減っても関係が密になったのもいれば、別れたのもいます。インターネットで知り合うのが当たり前の時代ですから、新たにつきあいだしたのもいます。

学校問題では、休みになっていじめから解放されても、再開した時の重荷で自殺するのや学業が遅れたことが自殺の原因になるのもいます。

経済問題は親の関係で生ずることがあります。

そういった自殺動機の変化が男女ともにありつつも、もともと若年層は自殺未遂率が高かったわけです。とくに女子。自殺未遂の数が増えずとも、自殺未遂が自殺にエスカレートする状態が作られるだけで自殺致死率は増加します。当然女子に偏りが出ます。

「安全装置」が働かず、同調能力の高さが発揮されてしまったのではないか。

そう考えると、コロナ禍の自殺は、背景に広く「安全装置」の変質が存在していると見ることが可能で、その上で個別層の動機の強化が関与しているのだろうと思えます。個別層の動機の強化を見ていくのも大事ですが、全体に共通する「安全装置」の変質にまずは言及すべきではなかろうか。

※2021年2月18日付「BBC」 散漫な内容とも言えますが、男性の自殺率の方が女性の自殺率よりずっと多いことを文中で触れていて、一目瞭然のグラフも出しています。これを踏まえない論はほとんど無効かと思います。可能性のひとつとして、NPO関係者が連鎖自殺について数字を出してコメントしていて、SNSについても触れています。短いながらも、この人物のコメントは大いに納得できるものだったのですが、名前までは覚えておらず。その内容から、「もしかすると」と思ってさっき確認したら、「コロナ禍における自殺の動向 10月の自殺急増の背景について」をまとめた「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」の清水康之代表理事でした。

 

 

あとは各国のデータ待ち

 

vivanon_sentence孤独、孤立は「安全装置」が働きにくい状態を意味しますから、自殺増加について「孤独の増加」を指摘している人たちは正しく自殺の一面をとらえていると思います。あくまで一面ですけど。

その対策として電話相談や自殺の名所での声掛けがありますが、これらは「安全装置」の欠落を補完する方法です。本来はそれが機能していればいいのですが、「安全装置」は「安全装置」として存在しているわけではなく、配偶者、子ども、恋人、友人、知人、同僚、先輩、後輩、隣人、仲間、趣味などとして存在しており、それが死なないための防波堤になっているとの認識が一般にはあまりない。私もはっきりとは認識してませんでした。

ないがゆえに軽視され、自殺を生み出す重要な要因として整理されていなかったのではなかろうか。私が知らなかっただけで、おそらくこれを重視して整理している人たちはいるのでしょうけど。

 

 

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