松沢呉一のビバノン・ライフ

中国のごまかしと反発する台湾・香港メディア—「武漢肺炎」という言葉[2]-(松沢呉一)

世界最大の差別団体・中国共産党によるアップルデイリー(蘋果日報)弾圧—「武漢肺炎」という言葉[1]」の続きです。このシリーズは一回目の前半と最終回の後半以外はボツ記事を復活させたもので、昨年の夏から秋にかけて書いたものです。また、一部図版は今回改めてつけたものです。

 

 

HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)は差別と決めつけることの危険をも指摘

 

vivanon_sentence前回見たように、たしかにヒューマン・ライツ・ウォッチは「武漢ウイルス」という言葉がヘイトスピーチにつながった可能性を示唆していますが、そこどまりであって、このような言葉自体が差別性を帯びるとまでは言っていないはず。

同時に彼らは世界中の人権侵害をチェックしていますから、しばしばヘイトスピーチ規制法は、政治的目的によって利用されていることを指摘しています

 

The use of hate speech laws around the world shows that authorities have often abused them for political purposes, Human Rights Watch said.

 

これはエチオピアに関する記事を読んでいたら出てきたフレーズ。

「ヘイトスピーチである」という認定は人を陥れるために恣意的になされるおそれがあって、ヘイトスピーチの政治的意図による拡大は人権侵害をもたらすとして警鐘を鳴らしているのです。

この半年、ヘイトスピーチや流言飛語を防ぐという名目で政府批判を封じ、インターネットを遮断し、反対派を逮捕する例がさまざまな国で起きていて、ヘイトスピーチか否かについては冷静な判断が求められます。拡大すれば、政府批判はのきなみ違法になる。

とくにアフリカについて丁寧に見ている人じゃないと気づけないでしょうが、ヘイトスピーチの法規制がもたらす負の部分が如実に出てきたのがコロナ禍です。ヘイトスピーチ規制法に賛成する人々はこの現実から学ぶべきです。

「差別だ」「差別用語だ」「差別的だ」と指摘するのはあたかも自分が差別に敏感、人権に敏感であるとのアピールにもなって気持ちがいい人たちもいるのでしょうが、ヒューマン・ライツ・ウォッチが警鐘するような政治的利用があり得ることはつねに意識しておきたいものです。

そして、「武漢肺炎は差別的である」という指摘も政治的になされていると私は見ています。中国によってです。そのことを確認してきます。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのサイトから、「少なくとも83の政府が、コロナ禍において、公衆衛生を名目として、反政府の発言者に対する暴力を行ない、逮捕・拘留・起訴などの措置を行ない、また、それを可能とする法律を制定して、表現の自由を規制した」との報告。

 

 

中国こそが「武漢肺炎」「武漢ウイルス」という言葉を使い始めた

 

vivanon_sentence今までも何度か書いてきましたが、「武漢肺炎」という言葉を使い始めたのはおそらく中国の政府系メディアです。

以下は2020年1月2日付「新京報」の見出しです。

 

 

 

 

同時に「武漢肺炎病毒(武漢肺炎ウイルス)」という言葉も使用されています。行政関係の報告書等で先に使っている例があるかもしれないですが、どこが最初だったかはさして問題ではなく、中国でもこの言葉を早くから使っていたことを確認しておきます。

ここから台湾メディアや香港メディアもこの言葉を使用し始めたという順番かと思います。

以下は2020年1月15日付「科技新報」。台湾メディアです。

 

 

 

 

たしかに中国では間もなくこの言葉を使わなくなって、3月には、「武漢肺炎」という擁護は差別的だと非難し始め、WHOがこれに同調。もともとWHOは地名を病名や病原菌の名称に使うのは好ましくないという考えなので、ことさら中国を擁護しようとしたとの意図はないだろうとは思いますが(WHOのことですから、中国に忖度した可能性、中国から依頼を受けた可能性も否定できないですが)、この「差別的」という非難は同時に「米国から持ち込まれた」などという根拠なきデタラメとパックになっていたことを忘れるべきではありません。

 

 

 

next_vivanon

(残り 1703文字/全文: 3483文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ