松沢呉一のビバノン・ライフ

言葉を刈っても差別は解決しない—「武漢肺炎」と「インド型変異株」-(松沢呉一)

アップルデイリー(蘋果日報)からまたも逮捕者—なんでも逮捕できる国」からゆるく続いています。

 

 

 

英国型・インド型・ブラジル型

 

vivanon_sentenceコロナ騒動にまるで興味がなくなったので、ほとんど記事を読んでおらず、ワクチンについても変異株についてもあんまりよくわかっていなかったのですが、今度は英国型だのインド型だのブラジル型だのといった名称が問題になっているのですね。気づくのが遅いってか。

その名称が差別を招きかねないというので、5月末にWHOがそれらに「​アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」といったギリシャ文字の名称をつけたと。

世界がパニック脳になっている感じです。もし「武漢肺炎」という言葉が差別につながることが明らかであったなら、最初から英国株、インド株、ブラジル株なんて名称を使う方がおかしい。これは専門家の間での通例に倣っただけのようですが、今に至るまで通例だったように、地名を冠するのはあまり良くないにせよ、「絶対に使ってはならない」という強度のある用法ではなかったことを示しています。「武漢肺炎」「中国ウイルス」といった言葉で急速に「強度のある禁止用語」に仕立てられたってことでしょう。

名称の問題ではなくて、それらの地で発祥したことから、その地域から来る人を恐れ、それが差別につながっています。名称のせいにするんだったら、それらの地で発生した事実を伏せる必要があるってことになってしまいます。

「言葉が差別につながるから使わない」ということをあっさり認めてしまうと、事実を報じることができなくなる可能性も出てきてしまうし、ギリシア文字ではそれぞれの区別がしにくく、覚えきれず、混乱するばかりということかと思うのですが、今に至るまで報道各社は変異株に地名をつけた名称を使い続けていて、「インド型変異株であるデルタ型」「デルタ型と呼ばれるインド型」といった言い方をしていたりもして、意味ねえ。

 

 

 

2021年6月15日付「朝日新聞

 

2021年6月21日付「日本経済新聞

 

 

 

2021年6月29日付「東京新聞」(共同通信)

 

 

2021年6月28日付「NHK

 

 

2021年6月25日付「TBS

 

本文では「デルタ株」を併用しているものもありますが、見出しではご覧のとおり、「インド株」「インド型」と言っています。「英国型(株)」「ブラジル型(株)」も同様の扱いです。

 

 

差別の対象となっているふたつの層

 

vivanon_sentence名称を変更したところで差別対策にならないことは明らかです。

いくつか差別に関する報告書を読んでみたのですが、国によって違いはあれども、差別の対象になるグループは大きく二種ありそう。ひとつは感染リスクの高いグループ(A)、もうひとつはもともと差別の対象になっていたグループ(B)です。

Aグループのもっとも顕著な例は感染者に対する差別であり、コロナウイルス感染によって死亡した遺体を火葬場が拒否するケースがインドでは多発しているため、ガンジス川のほとりで焼く人々が現れ、また、川に遺体を流すケースが報じられています。

移民グループ、外国人労働者グループ、貧困層グループは、ABにまたがっており、住環境の悪さと、感染しやすい職業によってクラスターが発生している例が多いことが差別の原因になってます。

この時の「感染しやすい職業」は、リモートワークに切り替えられない仕事であり、タクシー運転手や販売員、先進国では医療や介護の末端業務などを指します。

 

 

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