松沢呉一のビバノン・ライフ

ポーランドのデスボイス系フェミニストを支持する—ポストコロナのプロテスト[ボツ編6]-(松沢呉一)

XR(エクスティンクション・レベリオン)については前回までで、今回と次回は「中絶全面禁止を図るカトリック=PiSとそれに反対するウィメンズ・ストライキ(Strajk Kobiet)—ポストコロナのプロテスト[41]」の続きとして書いてボツにしたものです。その回の最後にその事情を書いてあるように、他のものが溜まってきていたので、この続きは後回しにして、データを調べつつ書いていたのですが、ほとんど完成したところで、「どうせ読む人はほとんどいないのでまあいいか」というのでボツにしました。

この手のものは読む人がほとんどいないのは変わらないですが、私はメキシコのフェミニストたちをああも強く、長く批判していて、一方で支持できるポーランドのフェミニストたちはあっさり1回で済ませているのはバランスが悪いかなと思い直したので、ボツ復活週間に出しておきます。

すっごい簡単にまとめるとメキシコのフェミニストたちの運動は「かよわい女を社会は特別に庇護してください」と要求しています。日本で言えば圧倒的に男の方が自殺をしているのに、「女の自殺の対策をやれ」と言っているフェミニストたちと同じ。「女子供バイアス・フェミニズム」あるいは「演歌系フェミニズム。対してポーランドのフェミニストたちは「個人の決定権を守れ」と主張しています。「個人主義的フェミニズム」あるいは「デスボイス系フェミニズム」。こっちは支持できます。平塚らいてうと与謝野晶子の違いと言ってもいいでしょう。

 

 

 

Strajk Kobietのマークと親衛隊のマーク

 

vivanon_sentenceこの話が面倒なのは、「胎児に病気や異常が見つかった時」に中絶できることを憲法違反だとした裁判所の判断はそれ自体を取り上げると、ムチャクチャではないって点です。よーく考えないと、カトリック=PiSの主張にも理があるように見えてしまいます。

カトリック=PiS勢力は、この条件を認めるのは優生思想を肯定するものであるとの主張をしています。障害者や遺伝性のある病気を持つ人の断種をしたり、結婚を禁じるのが優生思想に基づく施策であり、それと同じだと言っています。

ナチスが優生思想に基づく政策をやった国の典型とされて語り継がれているのは、断種に留まらず、安楽死(注射)させたためですが(T4作戦)、断種については少なからぬ国が実施し、日本もそうです。また、平塚らいてうら新婦人会は劣種禁婚法を実現しようとしました。

そのため、カトリック=PiS勢力は、反対派はナチス思想を持っていて、その証拠にストライキのマークはナチスのSS(親衛隊)からとったものだとのキャンペーンをやっています。

一瞥して似ているなと私も思いましたが、ちょっと似ているだけ。そもそもSSのマークはルーン文字をデザインしたものであって、だったら、ルーン文字は全部ダメなんかって話にもなります。

ハーケンクロイツも同様で、もともとあったものなのですから、ナチス肯定の文脈でなければ使っていい。ということをきっちりやってこなかったので、どんな時にも使ってはいけない、さらには似ていればアウトという論理をまんまと使われてしまいました。

バカげてはいるのだけれど、こういうのが通用しちゃう人たちはいるのよね。スクリーンショット(SS)を多用している人はナチス支持だと言いそうで怖いわ。

ここはバカげているとして、PiS=カトリックの「優生思想につながる」という批判はちゃんと議論を詰めておいた方がいいかと思います。もちろん、ポーランドではしっかり議論されています。

ポーランド語は自動翻訳で読むのはちょっと辛いところもあって(英語の自動翻訳よりも精度が落ちて、意味がわからないところや、原語ままが増えます)、そんなに読んでいるわけではないですが、私自身、「胎児の病気や異常をもって中絶できることにするのは、優生思想につながる」という批判をどうとらえたのかをまとめておきます。

十分に消化できていないところや誤読しているところがあるかも知れないので、あとは各自補足したり、訂正したりしてちょ。

※上はストライキのマーク、下はWikipediaよりSSのマーク

 

 

カトリック対フェミニストの論点は優生思想ではない

 

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このテーマについてはポーランドのフェミニズム系メディアoko pressがもっとも参考になります(okoはポーランド語で「眼」)。このメディアは反ドゥダ大統領の旗色を鮮明にしていて、プロテスト側に肩入をしているため、そのバイアスは各自外すってことで。

とくにこの記事はここまでの流れと、どこに問題があるのかをとらえています。

 

 

 

 

 

PiSは2001年に結党された比較的新しい党であり、アンジェイ・ドゥダ大統領がPiSに加わったのは2005年なので、それ以前から準備していたのはカトリック勢力ってことですが、早い時期から用意周到に進行していたとも思えます。

 

 

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