松沢呉一のビバノン・ライフ

終電を逃した横浜の夜—黄金町残華[1]-[ビバノン循環湯 590]-(松沢呉一)

「ビバノンライフ」を始めて数年間はすでにどこかに公開した原稿の再録である「ビバノン循環湯」の本数が多く、最大3割以上が「循環湯」でした。書いている私としては古いものを読まれるよりも最新のものを読んでくれた方が当然嬉しい。それでもやっぱりエロは強く、ランキングでも5本のうち3本か4本を「循環湯」が占めていて、ついつい古いものに頼ってしまうことに嫌気が差してきて、ここ2年くらいは「循環湯」の本数を抑えるようにし、やっと全体の2割を切りました。

出しておいた方がいいかなと思うものはまだあるのですが、まだ出していないのは、どちらかと言えば長文が多く、長いものはまとめ直すのに手間がかかります。だったら、新たに書いた方がいいのですけど、エロ系が少なくなりすぎかもしれないので、奮起して長いものをまとめ直しました。

これは2004年頃の話で、その当時に書いてあったものですが、公開する機会がないまま、数年後にメルマガで公開したものです。

写真は数年前に横浜で撮ったもの。当然本文には関係ありません。

 

 

横浜へ

 

vivanon_sentence渋谷のヘルスで働いていた伊藤君から電話があった。

「横浜でホテヘルを始めたんで、遊びに来てくださいよ。呉さんの顔をたまには見たいし」

彼は私を「呉さん」と呼ぶ。女でこう呼ぶのは少なくないが、男では彼だけかもしれない。馴れ馴れしいというほどではない彼の親しみのある距離のとり方は、とくに渋谷型風俗店のラフな接客に向いている。年輩の人たちはどちらかと言えば古い接客、つまり、背広とネクタイ姿でうやうやしく接することを好むが、私は伊藤君のような接客が心地いい。女のコと遊ぶためではなく、彼に会うために店に行きたくなる。

客にとっても取材者にとってもつきあいやすく、友だちのノリでつきあえるため、彼は女のコの受けもいい。横浜はどちらかと言えば、ソープランド型のキチッとした接客が主流ではあるのだが、横浜の人たちの性質からすると、伊藤君のようなタイプが活躍できる余地があるのではないかと思う。

それからしばらくして、横浜に用事があったので、ついでに彼の店に立ち寄った。ホテヘルの社長となった伊藤君とダベることが目的だが、取材させてもらうための下見でもある。

受付所がヘルス街である親不孝通りにあって、そこで客を受け付けて、一緒にホテルに行くスタイルだ。スタッフも受付所で客と対面するのだが、伊藤君は以前と同じくカジュアルな格好と接客である。

しかし、ひっきりなしに客が来るような状態ではない。この店だけでなく、親不孝通り自体、あまり活気がない。この店もそうであるように、数年前の法改正で無店舗のヘルスが認められたため、わざわざ遠くまで出かけなくなった客の分、歓楽街は苦しくなっているのかもしれない。

私は店舗の方がうんと好きだ。こうやって従業員と交流ができるからだ。そう儲かっていそうにはないけれど、伊藤君は元気そうでなにより。

取材する話もついて、翌週、再度店を訪れた。その時間分、金を払えば食事をすることも可能だというので、店の女のコと横浜名物牛鍋を食べたあとホテルに行って、いい時間を過ごした。それから店でまた伊藤君とダベッているうちに電車がなくなってしまった。カチッとした姿勢の店だとこうはいかないが、ダベっている時間もまた楽しいので、こうなってしまうのが難点と言えば難点、魅力と言えばこの上ない魅力である。

しかし、渋谷と違って横浜だ。タクシーで帰ったら万単位の金がかかってしまう。この店は深夜3時まで営業している。その時間までここで過ごし、そのあと黄金町に行って電車が動き出すまで遊んでいればなんとかなるだろう。

待合室でうたた寝をしてしまい、起きたら3時半。仕事に出ていた女のコたちも戻ってきて、いつまでも居座るわけにはいかず、私は黄金町に移動した。

 

 

終電がなくなり黄金町に移動

 

vivanon_sentenceコロンビア人やロシア人の街娼とホテルに行って、そのまま泊まる手もあったのだが、街娼ストリートに往事の面影はなく、街娼の姿は消えている。時々、川沿いに台湾人か韓国人らしき街娼を見かけるが、警察の目を恐れているためなのか、暗がりに潜んでいて、気楽に声をかけられるような雰囲気でもない(後日、ここを歩いている時に声をかけてきたのがいたが)。

大岡川のこちら側からもちょんの間の光が見える。その光からすると、まだ半分以上の店が営業しているようで、そぞろ歩く客たちも見える。

久々の黄金町なので、ワクワクしながら通りに入った。以前はタイ人も多かったのだが、中国系ばかりだ。大陸から来ているのもいるが、たいていは台湾だろう。

何人かに話しかけたら、やはり皆さん、台湾だという。大陸から来ているのは一人もいなかった。入管が厳しくなっているためなのかもしれない。

私自身の経験で言うと、大陸からの女たちは、たいていは子どもがいるようで、生活を背負った切迫感が漂う。しかも、日本語が話せず、コミュニケーションをとれないままのセックスは楽しくない。

その点、台湾の女たちは明るく、さっぱりしている。また、日本に滞在している期間が長く、繰り返し来ているのも多いため、最低限の会話は交わせ、最低限どころか、今時の高校生たちと同じくらいにコミュニケーションがとれるのもいる。

彼女らの多くは日本語学校に通うか、日本の飲食店で働いていてからここに来るため、日本語はすでにマスターしているのである。私としては台湾人ばかりになったのはかえって好都合だ。

「日本人の店です」と張り紙をしている店もある。以前から日本人の店はあったのだが、その数が増えたようだ。ヘルスやソープがいっぱいあるのだから、何もちょんの間で働かなくてもよさそうだが、本数をこなさなければならないにしても、サービス内容としてはこっちの方が楽だと感じるのがいることは容易に想像できる。セックスさえすれば、たいていの客は満足してくれるし、シャワーも浴びなくていいので、肌荒れは避けられる。接客時間が短ければ会話も最低限で済むため、その方が楽というのがいるのだ。

 

 

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