松沢呉一のビバノン・ライフ

「星占いフェミニズム」に留まる自称フェミニストが多すぎる—道徳がフェミニズムに見える人たちの仕組み[4](最終回)-(松沢呉一)

歴史観の欠落・世界を見る視野の欠落・「私」と「社会」を峻別する意思の欠落—道徳がフェミニズムに見える人たちの仕組み[3]」の続きですが、「70歳を前に中山千夏が悟ったこと—田嶋陽子著『愛という名の支配』を褒めたり貶したり貶したり[9]」からも続いています。

 

 

「星占いフェミニズム」から脱すべし

 

vivanon_sentence時間軸は「今」だけ、空間軸は「ここ」だけに留まるフェミニズムを「私フェミニズム」または「星占いフェミニズム」と私は呼んでいます。個人の問題が解決されたような気がした人たちは、それが正しい考え方だと信じてしまいます。星占いでも血液型性格判断でも宗教でも、信じる人にとっては正しい。誰もそれを否定できませんが、それを根拠に他者を批判することはできない。それはあくまで個人の真理でしかないのです。

たびたび繰り返してきたように「私」と言うべきところで「女性」という主語を使ってしまう人たちの問題は、ここに顕著に表れ出ます。「私」と「社会」を峻別できないまま、「私にとっての真理」を他者の真理。社会の真理としてしまいます。

今回の戸定梨香騒動で起きたのもそういうことです。全国フェミニスト議員連盟の主張はその関係者と同類の人たちにしか通用しない。

この人たちの仮想・妄想の上ではフェミニズムであっても、歴史に照らせばただの道徳規範であり、戸定梨香を創作している人にとっては「女性による表現の抑圧・妨害」です。女たちの表現を尊重できない者たちがフェミニズムを騙るな。全国フェミニスト議員連盟のやっていることはフェミニズムと無関係であるばかりかフェミニズムの悪用でしかありません。

全国フェミニスト議員連盟は批判対象は警察であることを強調していますが、戸定梨香のミニスカートや腹出しは性的対象物としてのアピールであるとの決めつけをやらかしておいて、そんな言い訳は通用しない。他者の表現を自分らの一面的かつ狭量な見方に押し込めたこと自体が問題です。

ここに出した写真は、昨夕、目の前を歩いていた娘さんです。寒い季節になってますが、このくらい短いスカートを町中で見かけることはそう珍しくもなく、「彼女の短いスカートは自身が性的対象物であることをアピールするものである」と公然と決めつけること自体が問題だってわかりますよね。まさにスラットウォークのきっかけになった警官と同じ感性です。

本人に聞けば、「かわいいから」「この方が動きやすいから」「下に見せパンを履いているので、エロだと思う人の方が頭ん中エロだらけ」という意見が出てくるでしょう。短いスカートってだけでエロだと決めつけるのは異常。エロオヤジの私でもこれはエロい衣装ではなく、かわいい衣装に見えます。

彼女に聞けば「口紅をベッタリ塗りたくるのと同じ意味でエロの衣装」と答えるかもしれないけれど、そう答えるかもしれない可能性をもって衣装を批判の根拠にしていいはずがない。

なんでもかんでもエロに見える自分の感覚で世界を見ないために何が必要なのかと言えば「他者の視点」であり、「社会の視点」です。「70歳を前に中山千夏が悟ったこと—田嶋陽子著『愛という名の支配』を褒めたり貶したり貶したり[9]」に書いたように、頭の回転がよさそうな中山千夏さんでさえ、長らく「私」と「社会」の関係がわからずにいたそうです。

この視点を獲得できないまま、「私の視点」だけでフェミニズムをとらえているから、「私」と接点のなさそうな過去の話に興味が向かわず、「私」と接点のなさそうな国外の話に興味が向かわないのではないか。「私の好き嫌い」「私の感覚」「私の感情」「私の勘」「私の快・不快」で解釈できることにしか興味が向かわない。そんなもので解釈できるのは「私のこと」だけ。そんなもので解決できることは「私の問題」だけ。

 

 

自分らの責任を見ないクオータ制支持者たち

 

vivanon_sentenceたとえば「女性議員率の低さ」を見た時に、「星占いフェミニスト」は「各政党を牛耳る男たちが女を候補者にしないからだ。女が議員になることを妨害されている」なんてことを言います。

対して私は候補者数と当選者数との関係や無所属の候補者の数を検討しました。つまり、なぜ女性議員が少ないのかの理由を客観性のあるデータに基づいて知ろうとしたわけです。その結果、そもそも政治家になりたい女が少ないのだと分析。

その原因は女は政治から遠ざけられていて、政治に関心を持ち、政治家になるためにもっとも必要とされる政治経済法律といった専門を選択することを忌避するように仕向けられているためだと考えています。

だから、その社会的な枠組みから逃れるために偏差値高い系の女子校がやっていることは参考になり、そういった高校を出た生徒たちは女子大に行く率が低くなるのは当然です。

 

 

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