松沢呉一のビバノン・ライフ

奥野店長も禁煙を始めていた!—高円寺パンディットで禁煙を完成させる計画[上]-(松沢呉一)

 

高円寺パンディットの奥野店長にタバコを勧めさせる作戦を思いついた

 

vivanon_sentence禁煙して1ヵ月で物足りなく思っていること—コロナ禁煙のじいちゃんとの会話」に書いたように、誰かにタバコを勧めてもらって、断固跳ね除けて初めて禁煙が完成するとの思いに私はとらわれています。そこで、タバコを吸う知人を呼び出し、禁煙の妨害をしてもらって断っても、すぐに帰るわけには行かず、それから1時間なり2時間なり一緒にいるのが礼儀ってものです。タバコを吸う人と長時間一緒にいるとタバコを吸ってしまうかもしれないので、なかなかそれも踏み切れず。

このジレンマを解消したい。呼び出すからいけないのであって、こっちから出かけていくんだったら、タバコを断ってすぐに帰ってもそんなに失礼じゃない。

たとえば高円寺パンディットに行きます。店長の奥野君がいます。奥野君は仕事中は吸いませんが、仕事が終わるとヘヴィースモーカーです。

私が行くと、すぐにタバコに火をつけ、私にも灰皿を出してくれるでしょう。

しかし、私はこう言います。

「オレ、タバコをやめたんだよ」

「え、今日はいいじゃないですか」

奥野君は私にタバコを差し出します。

「バカやろ、もうやめたって言っているだろ。こんな煙たいもん、吸えるかよ」

と椅子を蹴って帰ってくるわけです。

奥野君なら怒らないと思います。

※高円寺北口の喫煙所

 

 

奥野君も同時期に禁煙を始めていた

 

vivanon_sentenceさっそく電話してみました。

「明日いる?」

「明日はいないですが、明後日ならいますよ」

「ちょっとお願いがあってさ」

いくら奥野君でも、いきなり私が怒鳴って椅子を蹴って帰ったら気分を害するかもしれず、その前にタバコを私に勧めてくれない可能性もあるので、正直にシナリオを話しました。

「つうわけで、オレの禁煙を妨害して、タバコを勧めて欲しいんだよ。オレは激怒して帰るけど、すべてお約束のシナリオ通りなので、驚かないで欲しい」

「あー、その役は僕はできません。僕も先月から禁煙しているんですよ」

「えーっ、奥野君まで」

くだらないことをやってんじゃねえよと叱りたいのですが、叱る資格が私にはないのが悲しい。

彼の禁煙は値上げとは関係がなく、ダイエットの流れです。

「太ってきたので食事を制限しているんですよ。腹いっぱい食べると、タバコを吸いたくなるじゃないですか」

普通は「タバコをやめると口が寂しくてついお菓子を食べてしまって太る」「タバコをやめると何を食べても美味しくて食い過ぎるので太る」ということになっているので、ダイエットと禁煙の相性は悪いのですが、彼は「同じことならどっちもセーブしてやれ」と考えました。そこに人間の余裕みたいなものが感じらられるのがいやらしい。

他の人たちはもっと真剣にダイエットや禁煙に取り組んでいるのに、こんな軽率なヤツに簡単にやられてしまっては立場がなくなります。私の方が禁煙を妨害したくなりました。

 

 

next_vivanon

(残り 1564文字/全文: 2788文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ