松沢呉一のビバノン・ライフ

年末の東京をエロに染めた横須賀歌磨呂—「お笑い芸人養成所の女子はモテモテ」との説-(松沢呉一)

 

横須賀歌磨呂単独公演2021「エロコント発表会」

 

vivanon_sentence副鼻腔炎の病み上がりっぽくて体調がすぐれなかったため、直前まで行くかどうか迷いつつ、一昨日は横須賀歌磨呂の単独ライブ「エロコント発表会」に行きました。

来年は遂に映画「ヤリマンハンター」(「ヤリマン」はカタカナ表記になるらしい)が公開されますので、今後の単独ライブはチケットが手に入らなくなります。気楽に観られるのは今年が最後ですよ。

休止した年もありつつ、これで16年目だそうです。たいしたもんです。

今も若造って印象が強いですけど、横須賀歌磨呂はいい歳ですから、数日前にギックリ腰をやらかしました。歩くのもやっとの状態から、なんとか格好がつくところまでもってきたため、万全とは言いがたい状態ではあれども、最後まで倒れることなく完遂。

会場になった「サンガイノリバティ」は、下北沢の別の場所にあった「しもきた空間リバティ」がコロナ禍で閉鎖され、今年6月から再始動したものです。

行政からの指導はもうなくなったとは言えども、クラスターが発生したとあれば叩かれますし、営業できなくなりかねないので、まだギチギチに入れることはできないのではありますが、立ち見が出ない程度には満員。

最後にステージ裏のカーテンが開いて、下北沢駅前を背景に、パンツ一丁の横須賀歌磨呂が頭を下げたところでうっかり感動しましたわ。こんな趣向とはまるで知らずにいたものですから。

ステージの背後が開いて屋外が見えるライブハウスはなかなかなくて、どっちかと言えば芝居向きかもしれない。テント公演で、最後に背景が開いて、狭い場所から解放される気分を味わえるとともに、虚構世界から現実に引き戻される、あるいは虚構が現実世界に溶け出す感覚を味わえるメタな演出が私は好きです。昨日は横須賀歌磨呂の下ネタが下北沢を、東京を、世界を染めたように思いました。

 

 

芸人養成所の実情

 

vivanon_sentence「エロコント発表会」では、若手芸人がスタッフをやってまして、打ち上げで話をしました。

横須賀歌磨呂は孤高の人なので、あんまり先輩と後輩、師匠と弟子といったしがらみが強くはないですが、それでも慕ってくる若手がいます。横須賀歌磨呂のスピリットを引き継ぐとテレビに出られなかったりするのですけど、下ネタはともかく「コントの作り方」「虚構の飛躍力」みたいなところでは参考になりましょうし、「テレビでどう受けるか」なんてことばかり考えていると面白くならないので、そこから離れるための安らぎのオアシスのような存在にもなりえましょう。

若手のひとりはスズメノナミダこと飯田君。

こういうヤツ。

 

 

実体験に基づくいじめられネタ。

もうひとりはロングホーン尾崎

 

 

童貞ネタが得意なので、方向は違えど、大きいくくりでは横須賀歌磨呂と同じジャンル。

彼らは「同期です」というので、なんの同期かと思ったら、ワタナベエンターテインメントの養成所「ワタナベコメディスクール」の、8年前の同期でした。尾崎君の替え歌の中に「100万使ってお笑い学んで」というのはこのことです。

養成所と言えば吉本興行のNSCがダントツで知られますが、その次に人気があるのがワタナベコメディスクールだそうです。つっても彼らの時代でNSCが千人以上、対してワタナベは120人だったそうなので、10対1くらいの差があるわけですが、イモトアヤコハライチがここの出身。

お笑いではないタレント養成所は早くからやっていたし、さすがにナベプロの歴史がありますから、その信用や実績で人を集めていますが、彼らの同期は不作で、お茶の間人気を得たのはおらず。厳しい世界ですよ。

「養成所に入って1年で半分以上が消えますから」

どこの養成所もそうでしょう。クラスで「面白いヤツ」との評価を得たら、「芸人として人気者になれるかも」と思ってしまう。しかし、そういうヤツらばっかり全国から集まってきますから、すぐに「上には上がいる」「自分には無理」と悟るってもんです。「オレより上」と思えたヤツらでも、「オレはイケる」と最初は思えたヤツらでもたいていは数年で消えていきます。

 

 

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