松沢呉一のビバノン・ライフ

風俗ライターは感染したことを公言できない—もしHIVに感染していたら[2]-[ビバノン循環湯 603]-(松沢呉一)

子どもの頃持病だった扁桃腺炎で繰り返し高熱が出るようになった—もしHIVに感染していたら」の続きです。

 

 

検査のために保健所へ

 

vivanon_sentence保健所の検査は曜日が決まっていて、時間も午前中なので行きにくいのだが、5月6日に早起きして保健所へ。保健所で検査をするのは、『エロ街道をゆく』に書いた検査初体験以来のことだ。あの時は新宿保健所、今回は歩いていけるところにある保健所の出張所だ。

その違いかもしれないし、検査に来る人の数がどこの保健所でも減っているためなのかもしれないが、検査に来ている人の数は少なくて、すでに血液を抜かれて腕を押さえている人が一人、順番待ちをしている人が二人いるだけだ。一人は若い若い女性で、居心地が悪そうに顔を伏せている。

病院と違って、保健所では全員が全員、HIVの検査に来ていることがわかっているため、ついつい観察したくなってしまうのが楽しくもあり、難点でもあり。私だって観察されているに違いないのだ。

HIVの検査だけじゃなく、梅毒とクラミジアの検査もすることになっている。病院だったら16,000円のコースだ。ありがたい。

これは保健所によって違っていて、HIVの検査のみの保健所もある。他の病気をもっていると、炎症からHIV感染しやすいため、梅毒とクラミジアを同時に検査するのは賢明かと思う。

さらに千円を出せば肝炎の検査もしてくれるのだが、B型肝炎の抗体はすでにもっているので、これはパス(以前、ワクチンを打とうと思って調べてもらったら、すでにもっていたのだ。生まれつきもっている人もいるし、感染しても勝手に体が治してしまう人もいる)。

椅子に腰掛けて待っていたところ、あとからさらに男女一人ずつ来た。女性の方は20代前半だろうか。スラリとした長身で、知的な美人といった印象。留学先から帰ってきたばかりで、念のために検査をしておこうと考えたのだろう。とまた勝手な観察をして、勝手な想像をしてしまう。

受付のところで、ずいぶん話し込んでいて、検査のみならず相談も受けることになったようだ。きっと彼女も持病の扁桃腺炎が復活して、不安になったに違いない。

たぶん全員20代で、オッサンは私だけだ。世間一般、やりまくりのオッサンが少ないのではなくて、オッサンは平日の午前中に検査には来られないのと、病気に関する関心が薄いのだろう。保健所で検査する人を増やしたいのなら、検査の時間帯や曜日を検討しなおした方がいいと思う(のちにわかったが、現在、新宿南保健所では土日の検査を実施している)。

※Josse Lieferinxe「San Sebastián intercede en una epidemia de peste」(1499) ペストで人がバタバタと死んでいく中、神が救いに来てくれるとの願いを描いた絵はよくあります。神頼みしかなかったのですから、やむを得ないとも言えますが、不幸に乗じて信仰を強いるのはとんでもない悪徳だと思います。昔も今も。

 

 

保健師さんとの会話

 

vivanon_sentence10分ほど待たされたあと、中に通されて血を抜かれて終わり。説明もなにもない。自分の血を見て、「ずいぶんどす黒いな」と思ったが、他の人たちの血をみたら似たようなもんだった。

最初に保健所で検査した時も採血の時はこんなもんだったようにも思うし、下手に仕事のことを聞かれたら不快になる人もいるのだろうが、私が今まで通ってきた3人の医者はいずれも私の仕事内容まで知っているため、雑談のひとつもするってものだ。

このあとまた待合所で待たされ、しばらくして、別の部屋に呼ばれた。中に女性の保健師さんがいて、矢継ぎ早に質問をされた。

「今まで検査したことは?」

「何度も」

「今回は何か心当たりがあって検査に来たのですか」

「ありありです」

ちゅうか、心当たりのない人は検査に来ないのではないか。

私は単なるエロオヤジみたいである。単なるエロオヤジじゃないとは言わないが。

「特定のパートナー以外とのセックスをしたのですか」

「いっぱいしました」

そもそも特定のパートナーが複数いるというか、特定のパートナーがいないというか、どう説明していいのかもわからず、頭の悪そうな答えしかできない。私の下半身事情を正確に全部説明していると、2時間くらいかかるだろう。

頭の悪そうなオヤジにこれ以上聞いても無駄と判断してか、「まあ、特定のパートナーとだけしているから安全ということはないですけどね」と彼女は言った。正しい指摘である。

「その人たちとはコンドームをつけずにしたんですか」

「つけることもありますけど、つけないこともありますね」

どこまでも頭の悪そうな私である。

彼女はメモをとっているわけではなくて、なんのために質問をしているのか意味がよくわからないまま、私は手短に答え続けた。

「最近、高熱が出たり、風邪のような症状が出たことはありますか」

「よく出してます」

Deutsche Bibel AT, Bd. 1 (Gen. – Reg., Psalter) Bd. 2 (Paralip. – Malachias und einzelne Prologe) – BSB Cgm 503, Regensburg, um 1463 Folio

 

 

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