松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスした相手からの陽性カミングアウト—もしHIVに感染していたら[5](最終回)—[ビバノン循環湯 606]-(松沢呉一)

感染したジャンキーの友だちが連絡を断った—もしHIVに感染していたら[4]」の続きです。

 

 

 

セックスした相手から「HIV検査をしたら陽性だった」と告白された

 

vivanon_sentence前回の話を聞いてさらに一週間後、またまた驚くべき話を聞くことになった。直接の知り合いだったら話すのをためらうところだが、知り合いの知り合いともなると私も無責任で、ここまでの話をある編集者にしたところ、彼はこんな話を始めたのである。

「僕もビックリすることがありました。今年の3月頃、知り合いの女から“検査をしたら、HIVの陽性反応が出ました。念のために検査に行ってください”ってメールが届いたんですよ」

その編集者はこれまで3回彼女とセックスをしたことがあったのだ。

「運良く彼女とセックスした時は3回ともコンドームをしてましたし、彼女は口より指でされるのが好きだというので、クンニもしてませんでしたから、たぶん大丈夫だろうということもあった上に、入稿で忙しかったので、そんなに気にしてなかったんですけどね」

もうちっと気にした方がよかないか。

それでも3日後には検査に行き、無事陰性だった。

「彼女に報告したら、“よかった、本当によかった”って喜んでました」

やっぱり皆さん、誰かに感染させたのではないかと不安になるもんなんですな。

「僕も大丈夫だろうと思いつつ、検査のあとは、もし陽性だったらどうしようって考えてしまいました。つきあっている彼女にどう説明したらいいんだろうとか」

いかにコンドームをしていても、さすがにこの場合はビビる。

※David  Des Granges「The Saltonstall Family(1636) 貴族の男が子どもを連れて死の間際にある一番目の妻を訪れたところ。右にいるのは二番目の妻。抱いている子どもはたぶん自分の子ども。

 

 

乱交パーティにまで参加していた一部上場企業の社員

 

vivanon_sentenceで、いざ自分が陰性だったとなると、こうやってペラペラ話してしまうってもんでもあるし、話す機会があると、ついつい口が軽くなって、次から次とこういう話が出てくるもんだ。

「言わないようにしていたんですけど、きっかけがあると、言いたくなってしまいますよね」

そういうもんだ。

その女のことを私は直接知らないのだが、もし知っていたとしても、この編集者は私に「誰にも言わないでくださいよ」と言いつつ、教えてくれたに違いない。私が陽性だったとしても、こいつには絶対に言うまい。

これ以降も彼は彼女と何度かメールをやりとりをしていて、感染源についても聞いているのだが、自分でもまったくわからないと言っていたそうだ。セックスした相手の数が多すぎて、特定しようがないのである。私と一緒。

「彼女は僕と知り合う半年くらい前まではいつも生でやっていて、中出しも平気でしていたみたいです。僕はその頃にやってなくてよかったですよ」

よかった、よかったと私も思った。

彼女は風俗嬢ではなく、水商売もしたことがない。「女子大生の人気就職先ベスト10」みたいな調査にも入りそうな安定企業に勤務している会社員だ。調査にもよるだろうけれど、実際、ベスト10に入っていると思う。会社としても業種としても絶大な人気があって、こういう会社であっても、あるいはこういう会社でなくても、どこの世界にだって、こういう行動をしている男や女はいるってことなのである。

その編集者も彼女の性行動をつぶさにはわかっていないのだが、乱交パーティの類にも参加していたと言っていたのを記憶しているという。

「でも、しっかりしたスワッピングとか乱交のグループだったら、たいていコンドーム着用だよ。ルールはそれだけというグループも多いよね」と私は言った。

「そういうグループじゃなくて、友だち同士で集まっての、しっかりしてない乱交パーティじゃないですか」

今の時代、そういうパーティも当たり前のようにあるんだろうな。

Pannell&Holden、49 St George’s Road&17 Compton Avenue、Brighton(1902) 前回に続いて「死の床記念写真」

 

 

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