松沢呉一のビバノン・ライフ

フェミニストが口紅をつけることの是非—唇が物語る[11](最終回)-(松沢呉一)

いくらかの変化はあっても、なお口紅は女であることの表示—唇が物語る[10]」の続きです。

 

 

 

全国フェミニスト議員連盟の過ち

 

vivanon_sentence実際のところ、デボちゃんはゲイなのかヘテロなのか知らないですけど、ゲイかもと私が思ったくらいに、化粧は「非ヘテロ男性」的なものです。ここにはジェンダーによる偏りがはっきりあります。

男もまた見られる肉体を意識するようになってきていますが、顔については洗顔クリームを使うなど、「肌の手入れ」というところに留まっていて、化粧をすることはまずありません。芸能人がテレビに出る時、役者が舞台に立ったり、映画に出たりする時は男でも写真映えのためにメイクをしますが、これはまた別として、一般の人が化粧して出勤したら何か言われそう。

女が一切化粧をしないで出勤することが特別おかしなことと思われない職場もある一方で、今なおそれができにくい職場もあるでしょう。スッピンだとこちらも何か言われそう。化粧をめぐる男女の関係はきれいに逆転しています。

男だって化粧をしたい人ができるようになった方がよく、女だって化粧したくない人がしないで済むようになった方がいいですから、デボちゃんのように化粧をする男を私は推奨です。だからと言って、ここに強制力を持ち込んで、男女の化粧率を半々にするようなことをすべきとは微塵も思いません。

女が一方的に化粧を強いられているんだったら話は別ですが、したくてしている人たちが多数いて、それが楽しみ、生きがいになっている人たちもいて、その結果が現在です。

したくないのにしている人がいるのはそうすることにメリットがある(と思われている)ためであり、しないことで損をする可能性がある(と思われている)ためです。それを克服するには、化粧をせずに活躍する人が増えることが望ましい。

だからと言ってここでも強制力を持ち込んで、公的な存在、具体的には政治家、公務員、教員といった仕事についている女性は「化粧をしてはならない」なんてルールを作るべきとは微塵も思いません。化粧をするもしないも個人が決定すればいいことです。

その現状を壊したい人は自らの行動で範を示せばいい。女であれば化粧をやめればいいのです。だからといって、それをしない人を単純には批判はできません。なぜなら化粧の意味は多様だからです。

※「視覚障がい者向け化粧支援システム Makeup support system for visually impaired persons」 自分が化粧をしたところを自分で見られなくてもきれいに化粧をしたいと考える障害者はいるでしょう。介護者がしてあげればいいわけですが、皆がし始めると介護者の負担が増えます。また、介護の人が化粧のテクをもっているか、化粧に熱心か否かでも出来が左右されます。そこで、自身でメイクすることをサポートするシステムを開発している研究者たちがいます。化粧の色や位置をPCが認識して、適切な色や場所に訂正していくシステムです。この時に化粧をすることから逃れられている人々に「化粧をしなければならない」というプレッシャーを与えるなと批判するのは筋違い。健常者には「化粧するのが楽しい」「生活の張」と考えている人たちが多数いることを確認しました。そのプラスの意義を視覚障害者だって得ていい。また、このシステムは男にも使えますから、男で化粧したい視覚障害者もこれを使えばいいのです。

 

 

自分が何者か、自分が決める

 

vivanon_sentenceここまで見てきたように化粧の意味はさまざまです。本当にそうなのかどうか私にはわからないですが、口紅を大きく塗ることは「女性の発言力」「女性の解放」とつながることだったかもしれない。また、社会からいいとは思われていない色をわざとつける攻撃性の表現もあり得ます。一律に口紅は男社会に強制されたものと決めつけることはできない。

ミニスカートや腹を出すファッションを一律に「性的対象のアピール」と決めつけることはできないこともここまで見てきた通りです。歴史的に見ればむしろ女の選択肢の拡大を目指し、社会進出を目指した女たちに重なるファッションかもしれないし、自分らを縛り付ける道徳に反発する衣装かもしれない。

「自分にはこう見えるが、別の意図がそこにはあるかも」と考えられる人間こそが社会の多様性や共生社会を求める資格があります。それができない人たちは、以下のような例も許容できないでしょう。

 

2021年12月1日付「東京新聞

 

これはいい内容でした。

 

 

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