松沢呉一のビバノン・ライフ

女装趣味の男が女湯に入って捕まった大阪の事件はたぶんスーパー銭湯が舞台—人間の欲情の対象は必ずしも他人ではない-(松沢呉一)

 

女湯に入って捕まった女装趣味の男

 

vivanon_sentence銭湯好きとしては気になるニュースです。

 

 

 女装をして大阪市内の銭湯の女風呂に入ったとして48歳の男性が書類送検されました。男性は「女装が趣味で完成度を確かめたかった」などと容疑を認めているということです。

 建造物侵入の疑いで1月6日に書類送検されたのは、大阪府堺市西区に住む無職の48歳の男性です。警察によりますと、男性は去年9月、大阪市住之江区にあった銭湯の女風呂に入った疑いが持たれています。男性はかつらをかぶるなど女装をして女風呂に30分前後いたとみられ、当時女性客5人ほどがいましたが、フロントに「男っぽい人が女風呂にいる」と連絡があり、従業員が男性を確保。その後、警察に通報したということです。

 警察の取り調べに対して男性は容疑を認めているということです。男性は当初「性別は男だが心は女で女風呂に入りたかった」と話していましたが、その後の調べに対して「心は女でもなく性対象は女性でLGBTでもない。女装が趣味で難易度の高い女風呂に入ることで完成度を確かめたかった。女風呂に入っている自分自身に興奮した」などと話しているということです。

——2022年1月6日付「mbsNEWS

 

産経新聞によると、無職ではなく、派遣社員とのこと。また、捕まったのは9月24日とあります。

書類送検まで時間がかかっているのは、当初はトランスジェンダーだとごまかしていたためのようです。トランスジェンダーであれば女湯に入る理はありますが、ただの女装趣味だと入る余地はなし。

トランスジェンダーか否かの判断基準は法に準じて、「戸籍の変更を済ませているか否か」になるのでしょうが、「戸籍はまだ変更していないが、手術は済ませている」といったボーダーの判断が難しそう。この場合はそれでもないわけですけど。

 

 

女装者が女湯でパスするのは相当に難しい

 

vivanon_sentence前から書いているように、男湯でトランスジェンダーの現・男性を見ることがあります。銭湯で話しかけたことはないですが、手術代を貯めるために、風呂なしのアパートに住む人がけっこういるらしいです。

すでにホルモン剤で胸は少し膨らんでいますが、チンコはまだあるはず。隠しているので見えないのですけどね。戸籍の変更もしていないので、女湯にはまだ入れないのです。

女になりかかりの人が男湯に入っていても問題なし。髪の毛を長くはしていても、「女です」とアピールするような髪型にはしておらず、化粧もしておらず、もちろん、口紅も塗ってない。話し方や声でも性別は認識されますが、話をしなければ、そこでも判断されないため、トランスだと気づく人はほとんどいないと思います。

つまり、「女であること」は、外的な装いが整っていることでなされていて、乳がちょっと膨らんでいるくらいだと、すぐさま「女」としてはみなされない。太っている男で乳が出ているのはいくらでもいますから。

逆も問題なし。一般に、「男から女」より、「女から男」へのトランスはパスしやすく、「女としての装い」をせず、乳房を除去して、ヒゲを生やして短髪にしていれば、性器がどうあれ男とみなされます。「ヒゲ女子」もいますが、近くに寄って見ないとわからない産毛であって、くっきりヒゲが生えていれば男です。

男湯には女から男のトランスが入っている可能性がありますが、私は気づいていないのだと思います。

しかし、女湯は難しい。そもそも女の方が他人への関心が強い傾向がありそうですし、女装して化粧をして女にしか見えないとしても、その「女らしさ」を剥ぎ取るのが風呂です。風呂でバッチリ化粧を決めていると、それ自体が不自然になります。女装趣味の人でもホルモンを使っている人がいますけど、そうしたところでごまかしが効きにくい身長はそのまま、服で隠している骨格も顕になり、喉仏でもばれそう。

ということを考えると、このケースではフロントをパスして、女湯に30分滞在しているのですから、「たいしたもん」と言えなくはない。前貼りをしていたとも報じられているので、洗い場まで入っていたのだと思われます。

さっと入ってさっと出ればよかったのに、30分は入りすぎ。私だってそんなには入らないですよ。思い上がりましたね。

※「銭湯の女湯に女装者が入って捕まった」と聞くと、こういう銭湯をイメージする人も多いでしょう。銭湯はノスタルジー・イメージが強化されていますので。しかし、これは東京でもすでに少数派に転じた銭湯であり、まして大阪にはありません。これは関東スタイル。

 

 

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