松沢呉一のビバノン・ライフ

「ロシアのGoogle」ヤンデックスの最高責任者が実質のプーチン批判をしてロシアを脱出—一人また一人と国外へ-(松沢呉一)

ウクライナ・ブチャ市でのロシア軍による虐殺とプーチン甲状腺癌説」の続きです。

 

ヤンデックスの最高責任者が「ロシアに帰国しない」宣言

 

vivanon_sentenceまたひとり、ロシアから人材が流出しました。

ロシアの多国籍企業ヤンデックスの最高責任者イェレナ・ブニナは、滞在先のイスラエルから「隣の国と戦争をする国には住めない」として、ロシアに戻らないことを表明。戦争はたいてい隣国としますし、イスラエルもやっていますから、この言葉にはあんまり意味がないですけど、プーチンに対する批判であることは明らかです。

このままイスラエルに住むのかどうかわからないですが、ウクライナでもロシアでもメディア関係者はユダヤ系が多いです。昔からの伝統です。

ヤンデックスの業務は多岐に及びますが、よく知られるのはロシア語の検索エンジンやゲームです。ロシアのGoogleみたいな存在ですから、絶大な知名度があり、影響力もあります。

彼女の任期はあと2週間で切れる予定で、任期を果たしてから辞めるそうです。黙って辞めてもよかったのですが、その地位を活かして、プーチン政権に異を唱えておきたかったのでしょう。

ヤンデックスの元幹部レフ・ゲルシェンゾンが、ヤンデックスはプーチンのプロパガンダ流布に寄与していると告発して、EUはヤンデックスも制裁対象としており、そのため、ヤンデックスは情報部門からの撤退を検討していたさなかの辞任騒動です。ゲルシェンゾンはすでにロシアを出て、現在はドイツ在住。

プーチンに対する批判を表明しないで辞める人、表明したところで話題にならない人たちも多数いますから、とつてもない数の人材がロシアから流出しているのは間違いない。

難民と違って、通常のビザで国外に出て、人によってはその先で帰化をすることになるため、今回のことで国外に出た人の数を知ることは難しいのですが、前に「数万人」と書きました。もともと国外にいた人たちが「もう国に帰らない」と決断しているケースを入れると、軽く10万人を超えているでしょう。

※2022年4月2日付「REUTERS」 URLは日本のロイターですが、英文記事です。

 

 

政治亡命をスムーズにできるようにしないと抵抗する人がいなくなる

 

vivanon_sentenceイェレナ・ブニナさんは計画に基づいて国外に出ていたのでしょう。おそらく契約が満了した時点で、さらにロシア批判をやるのではなかろうか。イスラエルにいれば捕まることもない。それでも勇気がありますが、それ以上に、チャンネル1の一職員であるマリーナ・オヴシャンニコワさんのような人があれをやったのはつくづく勇気があると思います

イェレナ・ブニナさんは金を持っているだろうし、実績もあるので、よその国に出たところで食っていけましょうけど、一生困らないほどの蓄えがあるわけではない人たちが国外に出るのはやはり勇気がいります。

その勇気を讃えたい。そうしないと、ナチスドイツで抵抗運動した人たちのように、ドイツが負けても、彼らの行動は正当に評価されず、抵抗運動をした人たちが裁判にかけられるような理不尽なことも起きてしまいます。あれじゃあ、バカバカしくて、抵抗運動なんてしない方がいいってことにもなります。

マリーナ・オブシャンニコワさんに対して根拠もないまま、「ロシアのやらせだ」と決めつけるようなことも現に起きていて、ロシア内部での抵抗を軽視しすぎではないか。ものすごく大事だと思いますけどね。

 

 

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