松沢呉一のビバノン・ライフ

ワレリー・ゲラシモフ上級大将負傷情報は誤報だったよう。アンドレイ・シモノフ少将死亡はほぼ確定—ひさびさの「ロシア将校戦死情報」-(松沢呉一)

ブチャで生まれたリュボフ・パンチェンコは最後までブチャで闘った—ブチャ虐殺の首謀者たちを追い詰める」の続きです。

 

 

世界に浸透する「ロシア軍は無能」という評価

 

vivanon_sentenceひさびさの「ロシア将校戦死情報」です。まず前振り。

ロシア軍は「兵器は古く、新しくても見掛け倒し」「兵士の質が悪い上に士気が低い」「作戦が幼稚」と、「兵器・兵隊・戦略」の3つのポイントがすべてサイテーであることが露呈しています。

私が言っても説得力ってものがないですが、元NATO欧州連合最高司令官ジェイムズ・スタヴリディスは、「ロシアは驚くべき無能(amazing incompetence)」とラジオ番組で発言しています。incompetenceは無能、能なし。

NATOの敵と言っていいロシアですから、表現が過剰になっているところもあるかもしれないですが、実際、無能としか言い様がない局面が多々あります。

ジェイムズ・スタヴリディスは、根拠のひとつとして、多数の将官が戦死していることを挙げています。「少なくとも12人死んでいる」と。「近代戦において、これほどまでに将官が死んだ例を知らない」とも言ってます。

ん? 12人? はっきりしない人を入れてここまで9人、つい先ごろもう1人死んだ可能性が高いので(下記参照)、それを入れて10人。私が把握しているのはそこまで。これでも十分無能であり、「兵器・兵隊・戦略」のどこをとっても欠陥があって初めて成立する数字ですが、行きがかり上、正確な数字を出しておきたい。

ジェイムズ・スタヴリディスの発言を伝える2022年5月1日付「BUSINESS INSIDER INDIA

 

 

イジュームでアンドレイ・シモノフ少将が死亡

 

vivanon_sentence4月末にはワレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ入りしたと報じられていました。東部のハルキウ州にあるイジュームです。ロシアの支配地域です。

3月に戦死しているヴィタリー・ゲラシモフとワレリー・ゲラシモフとは親類関係だそうです。ヴィタリーは少将だったのに対して、ワレリー・ゲラシモフは上級大将であり、軍の最高位です。大臣としては、セルゲイ・ショイグ国防大臣がいますが、軍組織のトップはワレリー・ゲラシモフで、それが現場入りしたのですから、ロシア軍はいよいよ本気ってことです。あるいはいよいよ切羽詰まってきたってことです。やらんでいいことのように思えますが、無能なりに意味があるんだと思います。

プーチンは5月9日の対独戦勝記念日までに成果を出したかったのですが、大きな成果は出せないことははっきりしてきて、パレードを縮小した上に、改めて戦争宣言をすると言われています。ワレリー・ゲラシモフの現地入りはそれと関係があるのかもしれない。さんざん戦争ではないとして、戦争という表現をするだけでメディアを潰してきたんだから、一貫性を求めてプーチンは首を吊ればいいのに。

どういう理由であれ、参謀総長がイジュームに入るのですから、ウクライナ軍はビビるよりも嬉々として狙ってくるだろうと予想していたのですが、案の定、ウクライナ軍はイジュームのロシア軍を攻撃し、少なくとも将官1名を含むロシア軍の200人が死亡。

 

 

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