松沢呉一のビバノン・ライフ

戦地で負傷して捕虜になっている間にガールフレンドは他の男を連れ込んでいた—ロシア兵の正体[下]-(松沢呉一)

泥酔してウクライナ陣地に迷い込んで捕虜になったロシア兵—ロシア兵の正体[中]」の続きです。

 

 

 

民間人を殺したことの苦しみから酒を飲んで捕虜に

 

vivanon_sentenceチンギスが捕まった日、彼はウクライナで民間人を射殺していました。

車を停めようとして、従わない運転手は妨害工作をしたと見なして、その場で処刑。軍人だとしても無抵抗の捕虜を射殺するのは条約違反。3度そういう場面があったと言っています。

インタビューの前半では、自分は撃っていないかのようなことを言ってますが、恐怖のために1度は撃ったと言い出します。他の兵士が撃ったあと、遺体を移動しようとして足を持ち上げたら、息の音がして、彼も銃で撃ちました。何が恐怖だったのかはっきりしないのですが、生きていたことが恐怖だったのではないか。生きているなら捨てられない。

そのあと彼は動揺して我を見失い、酒を飲んだようです。

単なるマヌケな酔っぱらいではなくて、観ているこっちも苦しくなるようなインタビューです。

観ているこちらも感情が高ぶるのはチンギスが親戚や母親に電話をするところです。母親はチンギスが捕虜になったことを知ってました。このインタビューの前に報道されてますから。気づいた人が教えることもありましょうし、他のインタビューでは、捕虜になった場合は赤十字が連絡をしてくれるという話が出てきます。

このインタビュー・シリーズでは親族や知人に電話させるのが定番です。強要するのではなく、本人も話したがります。携帯を買えないのもいるでしょうし、持っていても、戦地に行く前に没収されたと言っている兵士もいますから、ともあれ生きていることは伝えたい。

フェイクだと決めつけるロシア勢を予め封じるということもあるし、いざという時は電話番号から相手を特定することも可能ですから、インタビューの信憑性を高める意味もありましょう。また、人によってはこれがきっかけで言っていなかったことを言い出すってこともありそうです。

4月10日に公開されたこの回では「モスクワやサンクトペテルブルグ出身者は見たことがない」と言っています。この捕虜はサマラ地方のチェパエフスク出身。ドネツィクとルハーンシクがどこにあり、キーウとの関係がどうなっているのかもわかっていませんでした。しかし、やがて北部に侵攻していくことがわかってきて、この戦争は侵略でしかないと今ははっきり断定しています。彼は自軍の車に轢かれて足を負傷し、部隊に置き去りにされて、ウクライナ軍に自ら投降。この回では祖母とガールフレンドに電話をするのですが、ガールフレンドは、ともにウクライナに行ったはずの男と一緒にいると告白。最初から二股だったのか、彼が戻ってこないので浮気したのか、そういう関係ではなく、ただ一緒にいたのか不明ですが、別のドラマが始まってしまいました。そこが見どころで、このシリーズでもっとも再生回数が多いのがこの回です。

 

 

捕虜インタビューで1ヶ月4千万再生回数

 

vivanon_sentenceインタビューをしている右の男はウラジミール・ゾルキン(Владимир Зоркин)という人物で、他にも多数のロシア人捕虜をインタビューして自身のチャンネルで公開しています。

彼のことを知ったのはお馴染み「メデューザ」にインタビューが出ていたからです。

彼は軍関係者ではなく、戦争前までフリーランスで法律事務所の仕事を請け負いながら、ブロガーをやってました。

 

 

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