松沢呉一のビバノン・ライフ

「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」とそれに対抗する「セックスワーカー差別集会への抗議行動」の試合は後者の圧勝—法をめぐる議論で法を曲解する人たちは退場すべし-(松沢呉一)

ひさびさに都内で街娼を見たかもしれないけど、興味がない—売春とAVの違いについて聞かれたけど、興味がない」の続きです。

 

 

AV新法に反対する人々とそれにカウンターをかけた人々

 

vivanon_sentence昨日(5月22日)、新宿駅東口広場でセックスフォビア派・道徳派・宗教派・表現規制派による「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」と題された集会があり(以下「緊急アクション」)、それに対してカウンターをかけるとSWASH要友紀子に教えられて、私も行ってきましたさ。

カウンター側は「セックスワーカー差別集会への抗議行動」と称していて(以下、カウンター)、このカウンター行動はSWASHが呼びかけではありません。当日配られた文書にも、呼びかけ団体名や個人名が明記されていないのですが、要友紀子もよく知らん若い世代の行動だそうです。まずこれに驚きました。

先行する世代の成果とまでは言えないかもしれないけれど、共振する若い世代が次から次と出てくることに感激です。その中には現役のセックスワーカーも複数いました。基本的なところは完全に共有できているので、入れ知恵さえする必要はなくて、私なんぞの出番はない。あとは任せた。

しかし、ああいう現場に行くと、あまりに相手がひどくて、怒りが沸々と湧いてきて、そのことは書いておくことにします。

なお、以下、書いていることは、いくつかの動画で確認できますので、各自ご確認ください。

 

 

 

フェミニズム対偽装フェミニズム

 

vivanon_sentence誤解されないように、もうひとつ確認しておくと、カウンター側はAV新法に賛成しているわけではありません。どちらかと言えば反対の人の方が多いでしょうが、ここではどうでもよくて、「緊急アクション」を批判しているだけです。

上の動画ではわからないですが、新宿駅東口広場に集まった人数は両者どっこいでした。

「緊急アクション」は紫色の風船を出していて、風船を人としてカウントし、その上、カウンター側の人数まで自陣営の参加者としていたとしか思えない主催者発表をしていましたが、出入りする人の数を考慮せず、また、取材の人たちを無視して、ある瞬間に限定すればどちらも80人程度だったと思います。通行人で足をとめる人たちもいましたから、それを入れるともっと多かったでしょうけど、それはカウンターも同じ。

どこまでそれが通行人に伝わったのかわからないですが、主張について言えば私はカウンター側に完全に賛同。

「緊急アクション」の方々が主張していたのは、ざっくり言えば「かよわい女が食い物にされるAV自体を禁止すべきなのに、AV新法はAV自体を肯定するものでしかない」という内容であり、対してカウンター側が主張していたのは「自己決定によるセックスワークを否定するな」「セックスワーカーの意見も聞け」ってことであり、主張の根幹にあるのはフェミニズムです。

以下は当日配布されていたカウンターの声明文より。

 

当日「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」に集まる人の中には、フェミニストを名乗っている方もたくさんいると思います。

あなたがフェミニストであるならば、「自分の身体で何をするかは自分で決める」という基本的な姿勢を思い出してください。

フェミニズムは女性、そしてすべてのジェンダーの人たちにとっての自由を追い求め、そしてまた国家による家父長制的な私たちの性や生殖のあり方を支配しようとする試みに対して対抗するものではなかったでしょうか。

 

これがフェミニズムの望ましきスタンスです。

この行動のあとで、呼びかけ人にも話したのですが、残念ながらこのフェミニズムの基本姿勢は、世間一般に理解されておらず、フェミニストを自称する人たちでさえも理解していないケースがよく見られ、だから、矯風会がフェミニズムに見えるフェミニストまで出てきてしまいます。宗教道徳に基いて風紀の乱れを糺すことを旨とする団体がフェミニズムのはずがありましょうか。

道徳を堅持するための運動もあっていいことは言うまでもないですが、フェミニズムの冠をつけるなって話。その何がおかしいのかもわからないくらいに「大衆的フェミニズム」は堕落して、道徳に近接してしまっていて、もはや「偽装フェミニズム」であると断じていいでしょう。

 

 

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