国民の大半が「このままでは損をする」と思った時にプーチン政権は綻びる—全体主義体制における賢い生き方[6](最終回)-(松沢呉一)
「少なからぬロシア系ドイツ人はプーチンのプロバガンダを信じている—全体主義体制における賢い生き方[5]」の続きです。
血を洗い流すことはできない
5月29日、モスクワの外務省前でナタリア・ペロワとリュドミラ・アネンコワによって「血を洗い流すことはできない」というパフォーマンスが行われました。
この行動のあと、ナタリア・ペロワは交通課の警官に連行されています。「痛みは決して消えない」「殺した事実は消えない」といったメッセージかと思いますが、はっきりとした言語的メッセージではないので、おそらく道路使用許可を出していないなどの軽微な罪であって、せいぜい罰金で終わりだろうと思われます(追記:甘かったです。その後のことはこちらを参照のこと)。
国外脱出を果たしたアーティストやミュージシャンたちも多いわけですが、次から次と行動するのが出てきます。
マリーナ・オヴシャンニコワさんは語る
プーチン政権に反対し、戦争に反対する意思が明確な人々によるロシア国内のプロテストの中でもっとも印象に残る行動を実行したマリーナ・オヴシャンニコワさんの最新インタビュー。
ドイツ・メディアと契約したとの報道は読んでましたが、業務妨害の裁判しか終わっておらず(罰金刑)、フェイク情報を流した容疑の裁判は残っているはずです。そちらで実刑判決にならないようにドイツ・メディアがサポートしたのかと思っていたのですが、この報道を見ると、ドイツに脱出することで実刑を避けたようです。
しかし、彼女は子どもに会いにロシアに戻って逮捕されそうです。ドイツ・メディアに雇われている点で「外国のエージェント」認定は確定ですし、そこでの発言もすべて犯罪にされそうですけど、彼女は逮捕されることを恐れないのではなかろうか。すごい人です。
彼女はなにかにつけ見方が楽観的で、「戦争をしたのはプーチンであって、国民はみんな戦争に反対」といったニュアンスが感じ取れますが、国民の大多数はプーチンを支持し、「特別軍事作戦」という名の侵略戦争を支持しています。
一連の火炎瓶事件は徴兵逃れが動機と思われる
こういった強い意思、明確な意思のプロテスターとはまた違う層からもプロテストが起き始めているかもしれない。
「軍の入隊事務所が発砲されたケースが多くあり」とテロップに出てますが、これは「火炎瓶を投げられたケースが多くあり」の誤訳と思われます。ロシア語で、「銃を撃つ」「火を放つ」は同じподожглиという動詞を使い、「火炎瓶を投げる」も同じ。
火炎瓶事件はすでに二桁に達していて、中には発砲されたケースもあるかもしれないですが、「多い」とは言えないでしょう。
この一連の火炎瓶事件については日本のメディアも報道し始めていますが、すでにピークは超えて連日ではなくなってきていて、数日に1回といったペースです。このことからも計画的、組織的なものではないのだろうと思われます。
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