松沢呉一のビバノン・ライフ

プーチン重病説に小躍りしない方がよさそう—「願望に基づく臆測に流れるのは危険」との教訓-(松沢呉一)

 

願望に基づく臆測に流れるのは危険

 

vivanon_sentenceプーチン重病説」がまたまた浮上してますが、その発信源になった「ニューズウィーク」の記事を読んでも、「プーチンはなんらかの病気を患っていて、4月にもその治療を受けている」ということしかわからず、たいした内容ではありません。

この記事は米諜報機関の3名の幹部によるリークに基いていますが、その1人である元空軍幹部による「こちらの願望に基づく臆測は危ない」との言葉も紹介されていて、「プーチン死ね」の願望が反映されていると私も思います。

「プーチンが死んでも、後継者が今の路線を維持するだけだ」との意見も聞きますけど、求心力をなくして国民の支持も減って、政権維持が精一杯となれば強硬策は取りにくくなります。よって今よりはマシになる可能性が高いですけど、あくまで希望的観測。

甲状腺癌なり血液の癌なりであれば命に関わりますが、なにしろ病名さえはっきりしない。副鼻腔炎ごときでも病院には行くし、簡単には治らない。なんらかの病気に罹っているのは事実だとしても、すぐさま死を迎えるような状態とも思えません。見た目からしても、真夏日に銭湯の清掃をしたあとの私の方が体調が悪そうに見えると思います。

また、同記事には、3月に暗殺計画が親衛隊に摘発されたとの話も出ていますが、わずかな文字数の簡素な記述であり、プーチン重病説以上に中身がない。具体的な計画が進行していたのであればもっと情報が出てきましょうから、酔った席で与太話を口にして捕まったのがいた程度ではないか。

この記事で学ぶべきは、「願望に基づく臆測に流れるのは危険」ってことです。

※6月4日付「ニューズウィーク」日本版 オリジナルの記事から3日遅れで日本版に出ました。

 

 

ロシア共産党内部の動揺

 

vivanon_sentence私としては、そんなことより、ここ数日の報道の中でもっとも注目したのは、ロシア共産党の動揺です。

ロシアの地方議会で議員が反戦演説をして退場に—ロシア人の行動原理は損か得か(ロシア以外でもそうだけど)」に書いたように、5月27日、沿岸地方の議会で、ロシア共産党のレオニード・ヴァシュケヴィッチ議員がプーチンに向けて反戦演説をぶちかましました。知事はこれに激怒して「裏切り者」と罵倒、対して共産党は厳しい措置をとると確約。レオニード・ヴァシュケヴィッチ議員とその場で支持をしたジェナディ・シュルガ議員を除名したことが6月1日に明らかになりました。

しかし、あの演説は他の共産党員も多数が支持していたものであり、とくに若手の党員たちは党の処分に反発を強め、大量に離党が続いているとの情報が「メデューザ」に出てました。その中から「ロシアの侵攻は帝国主義そのものである」との声も出ています。つまりはプーチン政権を打倒すべしってことです。

 

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