松沢呉一のビバノン・ライフ

出入り禁止になった銭湯にめげずに通う—女湯社会に抗うにせぽよ[上]-(松沢呉一)

男湯と女湯の違いは日本社会を反映している—タトゥの男女差[4]」の続きみたいなものです。

 

 

ひさびさのアクア東中野

 

vivanon_sentence火曜日に、アクア東中野に行きました。好きな銭湯のひとつです。東中野には他にもいい銭湯があるので、東中野に行っても、あっちに行ったりこっちに行ったりで、アクア東中野はロシアによるウクライナの武力侵攻後は初かもしれない。

お盆の間は銭湯の客が2割から3割は減っていたと思いますが、お盆が終わって、いつも通りの混みようでした。ここはいつも混んでいるのです。

アクア東中野の特徴のひとつは屋外に小さなプールがあることです。夏の昼間は、子どもがよく水遊びをしています。この日は早い時間の夜だったため、遊んでいる子どもはいませんでしたが、大人がいっぱいプール周りにいました。中にキンキンに冷えた水風呂があるのですが、屋外の方が気持ちがいいので、サウナ客がプールの中や外で涼んでいます。

洗い場が広いし、浴槽も広い。外にはプールも露天風呂もあるので、掃除が大変そうです。でも、タイルは少しも汚れておらず、毎日湯を交換し、掃除もしているのだと思います。プールだけは入れ替えなしで、塩素系消毒薬を入れているかもしれないですが、この銭湯はレジオネラ菌の心配はなさそうです。

たいていここではタトゥを入れているのを見ます。和彫りよりトライバルのようなタトゥが多い。

この日は入口で、タトゥを入れたウクライナ人女性も見ました。白人女性を見ると全員ウクライナ人に見えるだけで、何人かは知らないですが、二の腕にタトゥが入っていました。単独で来ていたと思われ、銭湯マニアです。

スーパー銭湯はNGが多いですが、大半の組合銭湯はタトゥが入っていても問題なしです。

 

 

にせぽよのバースデー・イベント

 

vivanon_sentenceこの2日前の日曜日、歌舞伎町で、にせぽよのバースデー・イベントがあったんですよ。

 

 

にせぽよは、モダンフリークスの所属であり、この日の主催もモダンフリークス。福田君から「スピーチをして欲しい」と言われていました。横須賀歌磨呂は、芸を一発やることになっていたのですが、にせぽよがママのスナック方式で、夕方5時から朝までという長丁場だったため、来客が全時間帯にばらけてしまって、人がいっぱいになる瞬間がなく、スピーチをしたり、ネタをやったりする場面もなし。

せっかく用意していた私の感動的なスピーチは幻になってしまいました。せっかくなので、ここで公開しておきます。

 

 

皆さん、ご存知のように、にせぽよの体にはいたるところにタトゥが入っています。仏滅なんて文字を入れている人はなかなかいないでしょう。リストカット代わりのメンヘラ系タトゥです。

スーパー銭湯と違って、組合系銭湯は、ほとんどの場合、タトゥは容認されています。にせぽよは銭湯が好きで、よく銭湯に行っているのですが、家の近くにある銭湯でおばちゃんに“いい加減にしてくれませんか”と言われてしまいました。

銭湯は公衆浴場法の規定によって、他の客に感染する病気をもっているなどの合理的な理由がない限りは、入場を断ってはいけないことになっています。和彫りを入れた集団が傍若無人な振る舞いをするような場合は、断ってもいいと思いますが、集団で傍若無人な振る舞いをすることが断る理由であって、タトゥがいけないのではありません。

それでも不快になる人がいるかもしれず、タトゥ入場禁止にするのであれば、予めその旨を貼りだしておくべきだと思います。実際、そうしている銭湯も一部あります。

それもせずに入場を断るのは法的にも道義的にも許されないでしょう。それを聞いて、私も大いに憤慨しまして、“もう二度と行くか”と決意しました(「タトゥの反応は男湯と女湯でまったく違うらしい—タトゥの男女差[3]」参照)。

それからしばらくしてから聞いたら、にせぽよはめげずにその銭湯に行っていると言うではないですか。ハートが強いのです。ヤクザ的に怖いのではなく、洗い場で手首を切りそうで怖いためか、あれからは注意されることはないとのことです。彼女は何も間違ったことはしておらず、私は彼女に同調して、その銭湯に行かないと言い出した自分をふがいなく思いました。

そこで、先日、私もそこの銭湯に行ったら、背中一面に和彫りが入ったおっちゃんがいました。男はよくて女はダメなのです。

なぜこうなってしまうのかについてはだいたいわかっています。男湯と女湯では人間関係の作られ方が違っていて、男湯では他人に寛大、あるいは無関心なのに対して、女湯では他人の目を気にし、他人の存在を気にするルールになっています。タトゥをして銭湯にやってくるような女は、他人の目を気にしない女ですから、ルール違反として排除されます。

にせぽよが注意されたのも、常連客が銭湯のおばちゃんに“あの子に来ないように注意してよ”と依頼したのだと思われます。

銭湯に限らず、はみ出し者を排除するのが女社会の作法です。女は均一でなければならず、自分の意思でタトゥを入れるような女は排除です。自分の意思でセックスをしまくるヤリマンも排除です。

排除されていることにさえ気付かず、我が道をゆくにせぽよを私は尊敬していますし、今年も無事誕生日を迎えられたことをお祝いいたします。ありがとうございました。

こういう内容を用意していました。

 

 

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