アムネスティとゼレンスキーの対立・その後—「敵を利する」論はノイズにしかならない-(松沢呉一)
アムネスティ・インターナショナルの謝罪
「アムネスティとゼレンスキーの対立を整理する—私はアムネスティの姿勢を支持」の続報です。
ロイターによると、ウクライナが人権侵害をやっているとの報告書について、アムネスティ・インターナショナルは「ウクライナに苦痛を与えたことを謝罪した」とのことです。この記事のあとだと思いますが、アムネスティのサイトでも同趣旨の声明が出ています。
おそらくこれはアムネスティ・インターナショナルのウクライナ代表だったオクサナ・ポカルチェクが報告書の発表のあと辞任したことが大きかったのではなかろうか。彼女は、この報告書の作成には関与しておらず、発表することに反対をしていて、それが聞き入れられなかったために辞任しています。
しかし、アムネスティ・インターナショナルは、謝罪しつつ、報告書の内容は正しかったとも言ってます。
事実、英「ガーディアン」は、学校や保育園が軍の施設として使用された例を7件確認していて、そのために砲撃を受けて、民間人の死者が出たことも確認しています。これ自体にもはや疑いはなく、議論すべきは、この事実をどうとらえるかです。
※2022年8月5日付「ZAXID NET」オクサナ・ポカルチェクが辞任したことを伝えるウクライナメディア。彼女は30年以上、アムネスティの活動を続けてきたベテラン活動家で、この報告書の公表に反対したのは、内容が不十分であるということとともに、「ウクライナで軍を批判することがどういう意味を持つのかをアムネスティ・インターナショナルの本部に理解させることができなかった」とも言ってます。言葉の壁だと。
アムネスティの報告は事実、その上での議論が必要
「ガーディアン」は学校に基地を置いたことによって砲撃され、民間人の死者が出たことを確認した上で、国際法を専門とする英グリニッジ大学のスティーブン・ヘインズ教授による「学校本来の目的に使用されていない場合に軍の施設として使用するのは必ずしもガイドライン違反にはならない」という見解を紹介しています。戦争になって以降、学校は学校として機能していなかったでしょう。
アムネスティ・インターナショナルは、それが問題にならないのだとしても、住宅エリアに設置したこと自体を問題とし、代替地はあり得たと指摘。学校としては機能していなくても、避難所になっていたケースもありそうです
求められる議論はここにありそうです。学校を軍事施設として使用していたことには疑いはなく、それがルール違反だったのか否か、民間人を盾にする目的があったのか否か、そこに設置したがためにロシアの攻撃を受けて民間人が死亡したのか否か、他の代替地はあったのか否かといった議論。
本来この議論は報告書を公開する前になされるべきだったかと思います。
これについてアムネスティ・インターナショナルがウクライナ政府に問い合わせたのは7月29日です。報告書を発表したのは8月4日。返事はなかったわけですけど、アムネスティ・インターナショナルは5日程度しか待っていません。たしかにここはもう少し慎重であるべきだったのではないかと改めて思いました。
※2022年8月4日付「The Guardian」 この記事はアムネスティ・インターナショナルの報告が出たその日に公開されています。改めて確認して回る時間はなかったはずですけど、この記事を書いた2人の記者は在キーウのベテランで、すでに学校施設を軍事施設に転用していることを認識していたか、電話で確認できるようなものだったのだろうと思われます。軍事機密にするようなものではなかったわけです。
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