松沢呉一のビバノン・ライフ

釈然としないダリア・ドゥーギナの爆殺—ロシア連邦保安庁(FSB)が犯人を特定しても全然説得力がない-(松沢呉一)

 

ダリア・ドゥーギナ爆殺事件

 

vivanon_sentence 昨日は長いのを1本出して、あとはモスクワでプーチンのブレインと言われる国家主義者アレクサンドル・ドゥーギンの娘であるダリア・ドゥーギナ(29)が爆殺された件についての各国の記事をずっと読んでました。

FSBは数時間前に犯行はウクライナ人のナタリア・ヴォフク(43)によるものとして、その手口も公開しています。

ナタリア・ヴォフクはアゾフ連隊に関わっている人物で、ウクライナ特殊部隊の命を受けて7月23日に12歳の娘とともにロシアに入り、ダリア・ドゥーギナと同じアパートを借り、1ヶ月近くダリア・ドゥーギナの動向を探っていました。

事件の日、父親のアレクサンドル・ドゥーギンとともに伝統的な祭(国家主義的なフェスティバルのよう)に参加した際に、ダリア・ドゥーギナの車の運転席の下に爆発物を仕掛け、ミニクーパーで後を追い、遠隔操作で爆発させたあと、エストニアに逃亡。

というのがFSBのストーリー。事件は土曜日の夜です。そこから月曜日にかけての1日ちょっとでここまでのことがわかるものかとの疑問があります。容疑者は捕まえられていないわけですし。その容疑者は子連れの母。とくにそれ以外の協力者がいるとされておらず、こんな犯行ができますかね。

※2022年8月22日付「BBC」 容疑者の名前はあえて外したのかとも思われるのですが、FSBの言い分のほとんどすべてを取り上げた記事です。写真はダリア・ドゥーギナ

 

 

アレクサンドル・ドゥーギンとダリア・ドゥーギナ

 

vivanon_sentence改めて事件のおさらい。

アレクサンドル・ドゥーギンは哲学者であり、ソ連時代は反共産主義の反体制派でした。しかし、ソ連解体後は国家主義、民族主義を強め、2001年、ユーラシア主義を唱えて、2002年に政治団体ユーラシア党を設立し、国内でもネオファシストとしばしばみなされています。

クリミアの併合やウクライナ全体の併合を主張し、プーチンの思想に大きな影響を与えた人物と言われていますが、あたかもロシアを代表する思想家であるかのような報道は過剰と言っていいようで、教鞭をとっていたモスクワ州立大学(一般にモスクワ大学と言われるのは国立)は、その危険すぎる発言によって追放されていて、プーチンの正式な顧問などの役職についていたことはなく、頻繁に会っていた事実もないようです。

娘のダリア・ドゥーギナはモスクワ州立大学卒業後、フランスに留学。メデューザによると、この頃は優秀でありながらも、エレクトロニック・ミュージックを愛好するありふれた学生だったらしいのですが、帰国後にメシを食うための手段ということなのか、クリミア侵攻以降は父親をなぞって、国家主義、民族主義に傾倒し、愛国団体「ロシアの地平線」にも参加。

 

 

next_vivanon

(残り 1323文字/全文: 2494文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ