松沢呉一のビバノン・ライフ

深夜立ち尽くす少年が考えていたこと—干ばつ・洪水・地震・ドラッグ-(松沢呉一)

 

深夜11時過ぎに路上に立つ少年

 

vivanon_sentence今バイトから帰ってきたのですが、昨晩、バイトに行くために駅に向かって歩いていたら、10歳くらいの男の子が路上に立ち尽くしているのを見ました。夜の11時を過ぎていたはずです。夏休みですから、そのくらいの時間まで起きている癖がついてしまった子どももいるでしょうけど。なんで外に立っているんだ?

夏休みの宿題をやっておらず、「外で頭を冷やしてきなさい」と親に叱られたのが午後7時。そのまま親は忘れて鍵をして寝てしまって、少年は家に入れなくなったのでありましょうか。

しかし、少年は泣いているわけではなく、もし彼が喫煙者だったら、中空に向けて紫煙を吐き出して、「フウ」とため息をつくような佇まいです。恋でもしたんかな。

泣いていれば声でもかけたでしょうが、そうではないので私はそこを通り過ぎて駅に向かいました。それからもずっと気になってはいて、「親の虐待か」とも考えました。飯も食わせてもらえず、ひもじくて、親切な人がハンバーガーでも買ってくれないかと待っていたのでしょうか。10メートルほど離れたところにハンバーガー・ショップがありますので(もう閉まっていたかもしれない)。でも、かなり太っていたので、いいもん食ってんじゃないかな。

あれこれ考えて、たぶん人類が遠からず滅亡することを知って寝られなくなり、物憂げな表情をしていたのだろうと結論づけました。

 

 

鄱陽湖に関する報道では深刻さがまるでわからず

 

vivanon_sentence今だとこの辺の記事が目につきます。

私も「中国最大の淡水湖、鄱陽湖の干潟に「大地の樹」が出現 江西省」という見出しで、「大地の樹」ってなんだべとついクリックしてしまったぜよ。

 

2022年7月27日付「新華網日本語

 

「干潟の川が樹のよう」ってだけ。くだらねえ。干ばつで、恐竜の足あとが出てきた、ナチスの戦艦が出てきた、ストーンヘンジが出てきたとやっている記事は全部くだらねえ。

どうせ人類はおしまいだから、こんなことで楽しむしかないと自覚してのことだったらいいのだけれど、ただ危機感が欠落しているだけではなかろうか。

Wikipediaによると、中国最大の淡水湖である鄱陽(はよう)湖は「季節により146km2から3,210km2まで変動」とあります。例年、渇水期は、満水時の20分の1まで面積が落ちるのです。

報道によると、現在30パーセント、あるいは3分の1になっているとのことで、まだまだ余裕があります。「大地の樹」なるものは毎年出現しているはず。ちなみに琵琶湖は674km2なので、渇水期には琵琶湖の4分の1以下になります。

子どもだって面白がりそうにない「大地の樹」なんて話より、「3分の1の面積になるのは例年のこと」と報じ、「例年同期に比べてどの程度少ないのか」を報じて欲しい。つうか、どうして記者はそういうことが気にならないんだろ。

こんな記事を読んでしまったので、少年は世を儚んでいたのです。

 

 

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