松沢呉一のビバノン・ライフ

手話と口話、聾学校と普通学校ーーー公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[4]-(松沢呉一)

西宮硝子はどこから転校してきたのか—公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[3]」の続きです

 

 

聾学校でも手話を使わない人たちがいる

 

vivanon_sentence話がアニメ「聲の形」から離れてますが、「聲の形」を理解するための重要な背景ですので、もうしばらくおつきあいください。

前回書いたように、聾学校出身者と普通学校出身者とではコミュニケーションの方法が違っていて、とくに手話と口話の位置づけが違います。しかし、聾学校では手話が尊重されているとまでは言い切れないのが現実です。

聾者のYouTuberはけっこういて、普通学校出身者と聾学校出身者の違いが出ているのが面白くて、「聲の形」をきっかけにずっと観続けています。

普通学校出身者は自身体験していないので、聾学校のことはよくは知らず、聾学校の現実をもっともよく教えてくれるのは、ユリマガールです。

 

 

 

メンバーは入れ替わってますが、現在はおもにこの2人で番組をやっています(メインは向かって右のクロエさんで、単独でも番組をやってます)。彼女らは小学校、中学とも聾学校出身です。コミュニケーションはもっぱら手話であり、今現在口話はほとんど使わない。だから彼女たちの発話は聞き取ることが難しい。特徴に慣れれば聞き取れるようになると思いますが。

しかし、これが聾学校出身者の標準とは言えないようです。菓子を食いながら(きなこさんはよくお菓子を食っている)、えれえシビアなことを話しています。

聾学校でも、手話を使わない生徒や教師がいます。そうすると、唇を読めないし、まったく耳が聞こえない人たちは何を言っているのかわからないので、聾学校に行く意味が減じてしまいます。

きなこさんによると、聾学校でも彼女以外は耳が少しは聞こえるために、口話だけになってしまう局面があったらしく。口話が苦手な自分はハブになると言ってます。

概要欄に聾学校内の差別もあると書いています。どこの学校でもあるように「髪型が変」「家が貧乏」「肥満」「運動神経が鈍い」「勉強ができない」といった理由でいじめがあるのでしょうし、障害の程度による差別もあるのでしょう。悲しい。

「聲の形」で硝子がいじめられたのを見て、「聾学校に行った方がいいのに」と思ってしまいそうになりますが、それで解決することも、しないこともありそうです。

むしろ、その発想は、「聴覚障害のある生徒は聾学校に行け」と言っているに等しくて、普通学校に行く権利を奪うものです。

 

 

時代による手話の変化

 

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以下の動画では、時代によって、手話の位置づけが違うことがよくわかります。

 

 

母の時代は、驚くほど手話の地位が低くて、学校では使えない時代もあったのです。教員も健聴者が多く、手話を使えない。放課後、学校を出てやっと生徒同士で手話を使う。

この頃は、聾学校の生徒でも、手話より口話が得意なのが多かったかもしれない。

彼らは憤慨していますが、そうなっていた事情も理解できなくはない。たとえば企業の採用担当であれば、ユカコさんのようにに健聴者と会話ができる聴覚障害者は雇えても、手話しかできず、もっぱら筆談になってしまう聴覚障害者は雇いにくい。仕事によりけりで、パソコンを使うだけの仕事ならいざ知らず。

今目の前にいる人とやってみるとわかりますが、筆談は口話や手話の3倍くらい時間がかかるのです。私のように字が汚いと誤読が増えますし。

手話は聴覚障害者同士の会話には向いていても、社会に対応するには口話ができた方がよく、口話は訓練と慣れが必要なので、学校では口話を優先したってことだろうと思います。

 

 

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