松沢呉一のビバノン・ライフ

西宮硝子はどこから転校してきたのか—公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[3]-(松沢呉一)

アニメが先か原作が先か—公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[2]」の続きです

 

 

 

アニメにおける呼称とヴィジュアルと音声

 

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前回おもな登場人物を説明しましたが、そこでもそうしたように、こういう場合、文字では呼称を統一しようとします。石田将也に対して「石田」「将也」「ショーちゃん」など複数の呼称を並列して使用すると混乱するためです。

小説やエッセイではそうする人が多いでしょうが、アニメではヴィジュアルと音声で人物を区別できるので、人によって、また、状況によって呼称が変化しています。高校に入って最初の将也の友人となった長束のように関係の近さを強調するため、「ヤーショー」という独自の呼称を使うのもいますし、姪のマリアは「ショーショー」と呼んでます。

その分、アニメではヴィジュアルに安定感が必要です。光の加減で変化をしますが、髪の毛の色は人によって統一されています。将也はざっくり言うと黒ですが、よく見ると青が少し入っていて、もっとも黒いのは植野です。

変化する法則はあるのですが、変化の幅が大きいのは硝子です。薄いあずき色、明るい茶色、オレンジに近い茶色、夜の暗さの中では紫色。彼女は髪型も変化しています。これは内面を表しているのでしょうけど、将也は色も髪型も一定なので、硝子特有か。

彼女は音声が独自なので、声で区別できる分、他は幅が大きくても区別できるってことかもしれない。

この「話し方」が、私が気になったポイントの筆頭であり、「もう一回観てみないとわからんな」とドロ沼に入り込んでいきました。

※植野と将也の黒髪の違いがよくわかるカット

 

 

硝子はどこから来て、どこに向かったのか

 

vivanon_sentenceなぜ硝子の話し方がそうも気になったのかと言うと、「硝子はどこから転校してきたのか」「どこに転校していったのか」という疑問点と関わるからです。

「その可能性がある」という程度の表現しかできないですが、硝子は、転校してくる前は聾学校にいたのではなかろうか。間に別の普通学校(障害者専門の学校ではない学校。「一般学校」とも言われる)が入るかもしれないですが、硝子は聾学校に通ってから普通学校に転校してきたと私は推測しました。

その理由は話し方と手話です。硝子は唇を読んで話すことが得意ではないようです。教室にやってきて「1日3分、手話を覚えましょう」と提案していた喜多先生(養護の担当なんですかね)は、植野が「ノートに書くのじゃダメなんですか」と聞いたのに対して、「硝子ちゃんは手話の方が楽なんですよ」と答えています。ちなみにあの喜多先生も担任の竹内先生も手話はできないと原作に出てました。機会がないと覚えないし、覚えても忘れましょうから、これはやむを得ないと思います。必要となったら覚えればいいのですが、あの二人がともに学んだフシはありません。

聴覚障害者なんだから手話の方がスムーズなのは当たり前と思うかもしれないですが、そうとは限りません。

たとえばこの人。

 

 

 

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