松沢呉一のビバノン・ライフ

高校生になっても西宮硝子には友だちがいなかったーーー公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[5]-(松沢呉一)

手話と口話、聾学校と普通学校ーーー公開から6年経って観たアニメ「聲の形」[4]」の続きです

 

 

英語版は聴覚障害の女優が硝子の吹き替えを担当

 

vivanon_sentence英語の吹き替えヴァージョンで、硝子を担当した英人女優のレクシー・マーマンは聴覚障害者だそうです。

 

 

このシーンは泣きどころのひとつです。硝子に暴行を加えているのは植野です。ひどいヤツですね。でも、彼女のイラツキは理解できます。これについては後述するとして、英語の吹き替えでは、硝子の発声は健聴者の声優がやっているオリジナルより聞きやすい。

レクシー・マーマンのインタビューでのしゃべりは、聴覚障害であることを感じさせません。

 

 

 

「聲の形」の原作を読むとよくわかるのですが、将也の退屈しのぎから始まった硝子いじりがエスカレートしていったのは、コミュニケーションが成立しないことにありました。最初から「障害者だからいじめてやろう」と思ったのではありません。

そのことを踏まえると、オリジナルの聞きづらい硝子の話し方はこのアニメにおいては適切です。英語版では単純な障害者いじめだったように見えてしまいましょう。このアニメ全体の趣旨を損なうものではないですけど。

 

 

硝子が合唱で物怖じしなかった理由

 

vivanon_sentenceここまで見てきたように、聴覚障害者には、手話と口話の得意・不得意があって、人によっては手話はほとんどできない、あるいは口話はほとんどできません。それを決定する外的要因は家庭環境と学校環境です。

断定はできないですが、硝子の発声は当初聞き取りにくかったことから聾学校出身だろうと私は推測しました。彼女の話し方は小学校と高校では違っていて、高校になってからのしゃべり言葉は聞き取れるのです。ここは是非気にしながら観直してみてください。

もうひとつ、硝子は聾学校出身だろうと思った根拠は合唱です。もし転校前に普通学校に通っていたのであれば、自分が合唱に参加するのは無理だとどこかで学習するはずです。学内のコンクールでは全員参加ということになっていそうですから、いくら音痴でも合唱に参加することになりますが、ああも突拍子もない歌だと、大きな声を出さないようにするってもんじゃなかろうか、

原作では、将也が硝子に「オンチなんだからうたっているフリしてけよ!」と言っています。言い方はきついですが、適切なアドバイスです。しかし、硝子はこのアドバイスを聞き入れなかったようで、皆が力を入れていた合唱コンクールはさんざんな結果に終わったことが原作では記述されています。

聾学校でも音楽の授業はあります。耳が聴こえなくても、指揮棒なり体を叩くなりして、リズムを理解することはできますし、軽度の難聴であれば、歌詞の聞き取りは無理でも、メロディまでわかる。合唱もやるのかもしれず、下手であっても、誰もが似たようなものですから、文句を言われることもない。硝子はそれをそのまま普通学校に持ち込んだのではなかろうか。

 

 

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