動員令は大失敗—ロシア国民の意識に大きな変化-(松沢呉一)
ダゲスタンの元・元首も激おこ
イランのプロテストはさらに規模が拡大していて、もはや動乱と言っていいような事態になってきていますが、イランの放送局はどこも自動翻訳の字幕をつけられる設定にしていないため、何を言っているのかわからんです。
では、今日はロシアについて。プーチンは最後の悪あがきをしているようにしか見えません。この点でも末期のヒトラーと同じ。やることすべてが裏目に出ている。
とくに動員令の発令は、ロシア国民に大きな変化をもたらしていて、これまでになかった抵抗が起き始めています。その筆頭が先日取り上げたダゲスタンです。
メデューザの映像。
これはダゲスタン共和国の首都マハチカラです。人口60万人弱。すでに多数の若い男たちが志願兵としてウクライナに行き、戻ってきていない。ロシアのことですから、戦死しても戦死したと通知していない可能性もありましょう。約束の給料や慰労金も払われない可能性が大。無駄死にです。
その上、今回は人口8,000人の村から100人以上を動員されている例もあります。都市生活者と違って、貧しい地域の住民では、国外に出ることは難しい。召集令状が届いたら死の宣告です。
しかも、手違いがあり、軍事委員の宣伝カーが「すべての男は出頭せよ」とアナウンスして回ったために住民が激怒。女たちは「私たちの子どもは肥料ではない」と激しく抵抗。彼らももうロシア軍が兵隊をいかに粗末にしているのかわかっています。
これに対して、昨年までダゲスタン共和国の元首であったセルゲイ・メリコフも激おこ(現在も要職に就いているようで、メデューザは「長官」と書いていますが、なんの長官かわかりませんでした)。
証拠動画を出して、「バカか」と罵倒してスマホを投げてます。このダゲスタンには、ロシアからの独立を目指すバルチザンたちがいて、混乱が長引けば彼らが有利です。
こういった手違いがあったことはプーチンも認めて謝罪。プーチンが謝罪するのは異例ですが、これを放置すると、政権内部からの離反が加速すると察知したのでしょう。
ミスを撤回したところで、人口の少ない貧しいエリアからはすでに志願兵として根こそぎ戦地に行っていますから、人材が枯渇している上に、これ以上殺されると跡継ぎがいなくなり、村が存続できなくなりますから、強い抵抗が起きる。金のために志願するのが多い貧困の都市でもこれ以上集めるのは無理。さすがにもう騙せない。
人材がまだまだいるモスクワやサンクトペテルブルクからかき集めない限り、30万人の動員を達成できない。ということになったのが今回の動員です。すぐさま送付された召集令状は3万通と言われていますが、その半数以上がモスクワとサンクトペテルブルク在住の人たちだと思われます。
今までロシア政府が避けてきた都市生活者たちが戦争に行く事態になったことが多数の脱国者を生み出しています。これまで他人ごとと思っていた人たちが今回は脱出を決意しています。
現場ではともかく数を集めることが目的化していて、動員対象ではないはずの学生や予備役ではない人にも召集令状が届いているため、「自分は大丈夫」という保証が完全に失われていて、医療関係者ではない女性と子ども以外、すべての人が死亡通知に等しい召集令状を受け取る可能性があります。プーチンはミスと認めましたが、ミスではなかったのかも。
今回の動員第一陣は訓練もなしにすでに戦地に送り込まれ、早くも戦死したのや投降したのがいるとも言われています。動員のペースより死ぬペースや投降するペースの方が早い。
以前から「ロシア政府は国境を完全封鎖するのではないか」と言われながら踏み切れないのは、不満分子を国内に留めると、入隊事務所に放火し、軍事委員に発砲しかねないからです。怖くてそれもできない。
あらゆる点において動員令の発令は失敗であり、国民だけでなく、プーチン政権にとっての死亡通知になったようです。
モスクワ在住者にも次々と召集令状が届いている
動員令が出て以降の「ロシア人にインタビューしてみた」です。
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