松沢呉一のビバノン・ライフ

マッサ・アミニの死に続くニカ・シャカラミの死と盗まれた遺体—女性! 生活! 自由!–(松沢呉一)

 

イランのプロテストによる死者は130人を突破

 

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ムスリムの少ない日本では、感心も低くならざるを得ないのですが、ムスリムの多い国(移民を含む)では、ウクライナ戦争と並んで、あるいは国によってはウクライナ戦争よりも大きくイランのことが取り上げられています。

その分、日本で取り上げる場合は最初から全部説明する必要があるので、かえってわかりやすいかもしれない。

 

 

わかりやすいのはいいとして、この説明だと、あたかも警察がしっかり心臓発作だと説明しているのに、民衆が納得せずに騒いでいるように見えます。

中立を貫くのだとしても、宗教警察の暴力は日常化していること、彼女が暴力を振るわれているのを目撃した人がいること、顔や体に暴行の痕があったこと、頭蓋骨を骨折していたこと、それまで健康になんら問題はなかったこと、政府は彼女が持病持ちだったことの診断書を偽造しようとしたことを依頼された医者が暴露したことなども取り上げるべきでしょう。

国家権力と民衆が対峙している時に、さらにはその国家権力がごまかし、捏造を繰り出してきている時に、この番組のような「中立」は、腐敗した国家権力に加担します。たとえばロシア政府の言い分をそのまま流して、ウクライナ政府の主張を無視するのが正しいのか否か。

ハメネイ師の言い分はひどいもんです。米国やイスラエルがプロテストの背後にいて、操っているのだと。そういった国々がプロテストを煽っている可能性はあるでしょうけど、この発端を捏造することは無理。それとも宗教警察の中に米国やイスラエルのエージェントが入り込んで、マッサ・アニミさんを殺害したってか。

 

 

ニカ・シャカラミさんの死

 

vivanon_sentenceすでに死者は130人を超えた模様で、とくに数日前から学生たちのプロテストが激しさを増していて、大学に対する弾圧が強まっています。高校生たちも立ち上がっていて、17歳の誕生日を控えていたニカ・シャカラミさんも抗議行動に参加していたのですが、9月20日から行方不明に。おそらく警察に連行されたものと見られています。

以来、家族は彼女を探していたのですが、皆目行方がわからず、9月29日になって、治安警察から遺体が見つかったと連絡があり、家族は拘置所で、遺体を彼女であると確認。この経緯から考えて、連行後に警察に殺されたと推測されます。警察は顔だけを見せて、体を遺族には見せず。治安警察は「高所から転落した」と説明。

後日、遺族は遺体を受け取りますが、鼻が潰れ、頭蓋骨が折れていたそうです。高所からの転落でもありえましょうが、遺族が埋葬しようとしたら、遺体が盗まれ、治安当局が秘密裏に埋葬していたことがわかります。おそらく遺体を調べられることを嫌ったのでしょう。盗んだのは警察としか思えません。

 

 

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