動員令以降、戦地に着く前に続々死亡—ラッパーの飛び降り自殺で改めて思ったこと-(松沢呉一)
動員令で自殺者急増
「人々がこうも自由を求めているのに、なぜ自由は簡単に失われるのか—個人の自由は全体主義に負けがち[上]」は続きがまだありますが、あれは読む人がほとんどいなかったので、ウクライナ戦争を間に挟みます。
10月7日付のメデューザの記事「One from a ‘blood clot,’ another by suicide The Russian conscripts who died without going to war 」は、召集されて自殺した人々や病死した人々(本当に病死なのか、そう処理されただけなのか不明)をリストアップしています。
その中に、ロシアのラッパー、Walkie T(ただのWalkieとも名乗っていた)こと、イワン・ペトゥーニンIvan Petunin(Иван Витальевич Петунин)がいます。9月30日、彼は以下の動画をTelegramに残して(自殺後に公開されるように設定していたようです)、高層ビルの11階から飛び降りて自殺。
人殺しになることを拒否。
彼の名前はブラックリストに入っていないので、私は存在を認識していませんでした。ロシアのミュージシャンについての私の知識は、ほぼあのリストに基いていますので、あれに入っていないミュージシャンは存在しないに等しい。
彼がリストに入れられていなかったのは、反戦・反プーチンの意思を表示していなかったためか、ブラックリストに入れるほどの人気はないためか、どちらかです(ブラックリストはイベンターや会場向けであり、ホールでツアーをやるくらいの存在がリストアップされている)。
彼には精神疾患があった
知りもしない存在であっても、こうやって死を覚悟した人の最後のメッセージを観ると、複雑な気持ちになります。花火大会での西宮硝子の表情が複雑なのと同じ。
彼は27歳。過去に軍隊経験があったために、今回の動員令で召集令状が届きました(メデューザによると、「受け取わっていない」とのことですが、届いても開封せずに「受け取っていない」としていたのだと思れます)。
彼は精神疾患があり、通院していたため、それを理由に動員から逃れようとしたのですが、認められませんでした。国外脱出もできず、自殺を選択しました。戦争自体に彼は反対で、プロテストとしての自殺です。
彼の精神疾患が何なのかは不明ですが、他の写真に比べると、この動画での彼はひどくむくんでいて、鬱なりなんなり、その症状が続いていたのではなかろうか。これが自殺を招いた可能性もありますが、だとしても、動員がなければ彼は死を決断することはなかったでしょう。プーチンに殺されました。
※メデューザよりWalkie
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