松沢呉一のビバノン・ライフ

ロシア人は火炎瓶を投げてから国を出るべし—プーチンに核兵器を使用させないために[下]-(松沢呉一)

逃げることだけ得意なロシア人たちを見て考えを変えました—プーチンに核兵器を使用させないために[上]」の続きです。

 

 

観光客視点のYouTuberたち

 

vivanon_sentence

国外に脱出したロシア人のほとんどは沈黙を守っているように見えます。積極的に発言しているのはもともとプロテストをしていた人たちとYouTuberくらいか。

ジョージアに逃げたYouTuber、カザフスタンに逃げたYouTuber、モンゴルに逃げたYouTuber、トルコに逃げたYouTuberの番組をチェックしましたが、それぞれ長閑に観光ガイドみたいなことをしていました。はっきりしたことはわからないですが、ロシア人たちは政治を語ることがタブーとされてきたために言葉をもっておらず、語りだすまでには時間がかかるのかもしれない。好意的解釈。

比較的マシなのは、イスタンブールに逃げたニキ・プシンです。「ロシアでプーチン批判・戦争批判をしていた人は国外に出ても継続する」の法則通り、彼はしっかりプーチンを批判する番組も公開していますが、イスタンブールに着いてすぐに出していたのは、やっぱりイスタンブールの観光案内みたいな内容でした。

 

 

イスタンブールには、プーチンを批判するロシア人たちが毎週集まって集会をする場所があるという話をしていますが、この回はそういった話はほとんどしておらず、イスタンブール散歩に徹しています。

これが初トルコってわけではないながら、彼もトルコにはさほど詳しくなく、言葉もできないので、薄いガイドです。彼はイスタンブールにいるのは1ヶ月か2ヶ月の短期滞在と言っていて、トルコに対して定住するほどの強い愛着や敬意はありはせず、経過点でしかないので、こんなもんでしょう。

こんなもんでも彼は中継をやる意味があり、ファン向けの挨拶みたいなものであって、この中継の間にも次々とカンパが集まってました。

トルコにはもともといろんなところから逃げてきた人がいますし、ロシア人に対する反感が強くはないことはこの中継からもわかります。とくに観光客であれば金を落とすのでおおむね店の人たちは歓待します。しかし、その恩恵を受けない人たちの中には反感が生じている人たちも少しはいるのではなかろうか。わからんですけど。

 

 

ロシア人お断りはしゃあないのか

 

vivanon_sentenceニキ・プシンも説明しているように、トルコのインフレ率は80パーセントを超えています。これは政府発表の数字で、実際にはもっと高いとの説もあります。公共交通は123.3パーセント増、食料品は123.3パーセント増ですってよ。1年で倍以上。

世界的な燃料や食料の値上がりを受けつつ、政府の対策の失敗などが原因として挙げられていて、ロシア人の流入はほとんど関係がないと思われるのですが、一般の人たちはわかりやすいところに原因を見出して憎悪を向けるってもんですから、少しは反発している人たちもいそうです。

繰り返しになりますが、それでもニキ・プシンは意思表示をはっきりしているので、うんとマシです。しかし、ただの観光ガイドだけをやっているロシア人に対しては家の前に「ロシアに帰れ」と貼り紙をしたくなります。しないですけど。

「ああ、なるほど、これでは北欧諸国やバルト三国がロシア人の受け入れを拒否するわけだ」と納得しました。

日本に避難してきたウクライナ人YouTuberもいるわけですけど、日本に着いて1日か2日で、町を歩きまわって、論評するようなことはしない。もっと人数が増えればそういうのも出てくるとしても、誰もがそれをやることはないでしょう。でも、ロシア人は高い率でこれをやる。観光客気分なので、旅の恥はかき捨てになっているのでは? あるいはロシア人特有の何かか。

こういった観光客気分のロシア人を排除する国々の対応を今まで私は批判してましたが、万単位の人が入ってきている今の時期に関して言えば受け入れ拒否はやむを得ないと思い直しました。本来、特定の国の人の入国を拒否するのはよくないと思いますが、しゃあないのかなと。

※2022年8月3日付「Bloomberg」よりトルコの消費者物価指数

 

 

国内での抵抗は無駄だとしながら、国外に出ても黙るロシア人たち

 

vivanon_sentence以下は10月11日に公開されたばかりのBBCの番組ですが、これを制作したディレクターもまた私と同様の、ロシア人の脱国者たちの振る舞いに着目したのだろうと思います。

 

 

ロシア国内でプロテストをしてこなかった人たちが、自分が戦地に駆り出されるかもとわかった途端に国外に脱出し、そこでもロシア政府への抵抗の意思を見せないロシア人たち。ロシア国内で抵抗することは無駄だと考えてます。たしかに、すぐに潰されて捕まりますから、馬鹿正直にやっても難しいのは事実ですが、だからバレにくい地下活動に転じている人たちがいるわけですし、捕まることのない国外では闘うのがスジです。

 

 

next_vivanon

(残り 1370文字/全文: 3530文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ