松沢呉一のビバノン・ライフ

京都橘高校吹奏楽部は100年前のニューヨーク・パリ・ベルリンを踏まえている—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[12](最終回)-(松沢呉一)

京都橘高校吹奏楽部のどこに魅せられたのか—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[11]」の続きです。長くなりましたが、これが最終回です。

私としてはこのシリーズはこの上なく楽しかったです。京都橘高校吹奏楽部がキャバレー仕様の選曲や装いを導入していることはすぐにわかりましたが、「マーチングバンドの三つの表現の場に伴う変化」「ミリタリー系と非ミリタリー系」「米国と日本のマーチングバンドの違い」といったテーマは今まで意識したことがなかったので、それを整理するのが楽しかったのです。京都橘高校吹奏楽部のおかげで、日本のマーチングバンドの特殊性に気づけ、米国のマーチングバンドのカッコよさにも気づけました。米国のマーチングバンドはブラスロックです。

 

 

バーレスクとしてのマーチングバンド

 

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今回の台湾遠征では、双十節以外の場でも演奏していて、以下は圓山大飯店での演奏。

 

 

台湾遠征のメインイベントではなく、「ついでの余興」っぽいですが、であるが故にその特性がよく出ているこの動画が私はもっとも好きです。京都橘高校吹奏楽部の代表曲と言っていい「シング シング シング」はもともとどういう環境で演奏された曲なのかがよくわかります。

高校の制服だけど、小芝居も入っていて、もっとも「出し物感」「エンタテインメント感」が強くて、バーレスクそのものです。

今はキャバレーの出し物全体を指す言葉として使われることことが多いバーレスクという言葉ですが、もとはと言えばどこかの表現を借りて権威を皮肉るような出し物のこと。日本で言えば、軽演劇にバーレスクが継承されていて、キャバレーの出し物よりも、ストリップのコントに近い。

スカートの中を見せるわけにはいかなかったけれども。楽器を持たない子らのダンスはキャバレーのダンスです。キャーと声を出すのはムーラン・ルージュの伝統。

ムーラン・ルージュは今もパリなどで営業しているキャバレーです(Facebookの私のアカウントで背景に使っているのは100年ほど前のムーラン・ルージュの写真です)。日本でのムーラン・ルージュ的ダンスは日劇ミュージックホールとともにほとんど潰えてしまったため、今の時代に、これを見てすぐにキャバレーを連想する人は少なく、それをいいことにキャバレー芸を高校生が制服でやってのけるのは痛快です。

この演出は誰が考えたのかわからないですが、京都橘高校吹奏楽部のダンスは、生徒がつけ始め、今なお振付師に依頼しているわけでも、教員が指導しているわけでもなく、生徒自身で決定しているとのことです。演出もまた生徒たちではなかろうか。

 

 

マーチングバンドと足上げ

 

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ラインダンスの売りは揃って足を高く上げるところにあります。股間を見せるわけですから、お下劣です。京都橘高校吹奏楽部はそこまではやらないですが、マーチングバンドと足上げは密接に関係していて、米国のマーチングバンドでも女子高生の足上げはよく見られます。ダンス要員がいるチームのほとんどがやると言っていいでしょう。

 

 

「米国のマーチングバンドと日本のマーチングバンドは選曲も違う—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[9]」で取り上げた「The Bridge Bacchus Parade 2022」より

 

 

パレードにおいても京都橘高校吹奏楽部がビッグバンドの曲をやる時はラインダンスを意識した振り付けをやっています。

 

 

彼女たち、ちょっとずつ振り付けをアレンジしていっているのがまた憎い。

 

 

ムーラン・ルージュを間違いなく意識している京都橘高校吹奏楽部

 

vivanon_sentenceキャーと声を出すことのルーツも確認しておきましょう。

今もオリジナルのムーラン・ルージュはモンマルトルにあります。

 

 

 

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