松沢呉一のビバノン・ライフ

気候変動が紛争を生む—ナイル川流域で次の戦争が準備されている-(松沢呉一)

 

これからの戦争

 

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その後の話は「ロシアがポーランドにまさかのミサイル攻撃か?—NATOはどう出る」に加筆をしておきましたが、ウクライナの迎撃ミサイルだったということでほぼ落着。NATO軍が参戦せざるを得なくなって、ヨーロッパのみならず、アジアでもミサイルが飛び交うことになるのかとビビりましたよ。

この件でちょっと引っかかることがあります。その真相をもっとも早くに気づけたのはウクライナのはずです(迎撃ミサイルがどこに飛んでいったのかまで把握していないでしょうけど、ミサイルの軌道から推測できそう)。しかし、ゼレンスキー大統領はいち早くロシアの攻撃だと結論づけて批判。立場上そうなるのは仕方がないとは思うのですが、早く確認をして、確認できたらロシアだと決めつけたことを撤回すべきです。

ウクライナの言い分をそのまま受け取るのは危険だと改めて思いました。今回はロシアの言い分が正しかったわけで、一万回に一回はロシアも正しいことを言います。

今回は拡大が避けられましたが、これから世界では戦争が頻発します。「スペイン風邪→世界大恐慌→第二次世界大戦」という流れは、それぞれ密接な因果関係があったわけではないので、この流れが今回も繰り返される保証はないですが、「新型コロナ→経済的大混乱」まではすでに起きていますし、そのことが今後の戦争を加速させるだろうと思います。

今後の戦争の大きな原因になるのは気候変動です。原因のひとつでしかないですが、そのことを確認しておきます。

COP27開催中だが、これといった成果はなさそうで、COPの予算で武器を買ってウクライナに贈与して戦争を終わらせた方が地球環境のためになる」で取り上げた頓珍漢な気候変動のニュースをまたもANN(テレ朝系列)が繰り返しています。

 

 

付け焼き刃で、それらしい映像を集めただけなのでしょうけど、ベネズエラの洪水は9月にも10月にも起きていて(10月は2回)、数は少ないながら、どれも死者が出ており、対して11月の洪水では死者は出ていません。家が流される映像が欲しかったのかもしれないけれど、そんなにたいした被害ではありません。

続くケニアは重要ポイントの一つ。正確には重要エリアの一つ。これについてはこのあとまとめて見ていきます。

そして、またも気候変動と関係がないインドの大気汚染。野焼きでCO2が出るにせよ、そんなもんは何百年も前から続いていたものであり、日本でもやってました。今もやっているのかな。いずれにしても、ひどい内容。

 

 

ナイル川をめぐる紛争

 

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ではアフリカ大陸です。

ナイル川は、エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、コンゴ民主共和国、ルワンダ、ブルンジの10カ国を経由しており、それらの国では、農業用水、工業用水、飲料水をナイル川に負っており、長らくナイル川をめぐる対立があって、その解決のための協議が行われてきましたが、農業、工業の発展、人口の増加にともなって水の需要は増えることはあっても減ることはないわけで、どうやってもきれいには解決はしません。

電力不足が深刻になったエチオピアは、ナイル川上流の青ナイル川に水力発電のための大エチオピア・ルネサンスダムを敷設し、2020年7月から貯水を開始、今も貯水し続けており、最終的には琵琶湖の2.7倍の貯水量となる巨大ダムです。

これによってナイル川の水量が減って、とくに今年はナイル川が枯渇していて、昨年比でエジプトが使える水量は40パーセント減少しており、エジプトの旱魃に拍車をかけています。水なし、食い物なしが目前に迫っています。

そのため、エチオピアとエジプトの対立が高まっています。エチオピアは内戦がどうなったのかさえも分からないまま、ティグレの人たちが国内外で難民化していることは今までにも見てきた通り。また、エチオピア、ソマリア、エリトリア、スーダンの戦争は表面的には終わってますが、それぞれの関係は不安定であり、その上、旱魃による食糧不足が深刻になってきて、再度戦争になりかねない。

エチオピアとしては、自国内から発する青ナイルの水を自国内のダムで堰き止めて何が悪いってことですが、その下流で青ナイルの水を使ってきたスーダンとそのさらに下流の水を使ってきたエジプトとしては黙っているわけにはいかない。

 

 

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