松沢呉一のビバノン・ライフ

ゼレンスキー大統領の拙速な意見表明と中村逸郎・筑波大名誉教授の軽率な予測—結論が出るまでは慎重に-(松沢呉一)

 

ポーランドに着弾したミサイルの件

 

vivanon_sentenceロシアがポーランドにまさかのミサイル攻撃か?—NATOはどう出る」を書いて以来、ずっと推移が気になってます。

おさらいです。15日の夜、ウクライナ国境から約6キロにあるポーランドのプシェヴォドフ村にミサイルが着弾し、村民2人が死亡。

着弾したのはロシア製の地対空ミサイルS-300。ソ連時代に防空用に開発されたシステムですが、おそらくミサイル不足のため、ロシアはこれを攻撃用として使用しています。ゼレンスキー大統領はこれをロシアの攻撃によるものだとして強く非難。

もしそうだとするとNATO軍は出動するしかなくなり、事実、その態勢に入ったと報道されていて、世界中がピリピリとした空気に包まれました。私はその時、風邪で熱をだして、私の喉もピリピリしてました。ピリピリじゃなくて、ヒリヒリか。

しかし、S-300の射程距離は90キロ(機種の違いか、製造時期の違いか、もっと長い数字も出ている)。ロシア本国からの最短距離は580キロあるため、本国からの発射はあり得ません。ベラルーシからでも最短117キロ。つまり、ベラルーシから少なくとも20キロほど南に侵攻した上で発射しない届かない(射程距離の数字によってはベラルーシから届く)。

射程距離にはいくらかの誤差があるにせよ、弾道からしてもロシアが発射したとは思いにくい。どちらから飛んできたのかは現場の検証で判断ができて、ボーランドによる検証では、着弾地点から近いウクライナから発射されたと考えられます。

もともとウクライナは S-300を所有していた上に、戦争が始まってから、チェコなどの元親ソ国からの供与を受けてます。

ほとんど結論は出つつあって、あとは現場検証で、このことの裏とりをするだけ。

✳︎2022年11月17日付「BBC」日本語版より。ここまでの経緯を一つ一つ検証しながら確認する内容。大変いい記事でした。

 

 

十分な調査をしないうちから断定的に語ることの間違い

 

vivanon_sentence以上のように、ボーランドに落ちたミサイルはウクライナの迎撃ミサイルだった可能性がいよいよ強まってますが、そうなればなるほど、面倒臭いことになってます。

 

 

ウクライナ軍としては、自分らの責任になるのはイヤですから、そこにバイアスが入っていたかもしれず、「ロシアのミサイルだ」と報告し、ゼレンスキー大統領はそれを鵜呑みにして発表してしまったと思われるわけですが、慎重さが欲しかったものです。断定を避けて、「結論を出すにはもう少し時間が必要」としてペンディングとするか、撤回がしやすいように、「現時点での情報を見るかぎり、ロシアのミサイルである可能性を否定できない」といったニュアンスに留めるべきだったろうと思います。

 

 

next_vivanon

(残り 1157文字/全文: 2376文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ