松沢呉一のビバノン・ライフ

規制緩和の方針はすでに決定していると思える—なんだか引っかかる中国の動き[中]-(松沢呉一)

中国の「白紙革命」に冷ややかな香港人と冷ややかな私—なんだか引っかかる中国の動き[上]」の続きです。有料部分にウルムチ火災について間違ったことを書いたため、訂正を入れておきましたが、さらに詳しいことを「ウルムチの火災についての訂正と今後の中国政府の出方—習近平も方向転換を示唆」に書きましたので、そちらも参照してください。

 

 

iPhone工場からの脱出

 

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1ヶ月ほど前、河南省鄭州市にある鴻海(ホンハイ)精密工業の工場から住み込みの工員が大挙して脱出した騒動がありました。あれは行動制限されたことによるストレスもありつつ、直接には工場内で感染が拡大しているという噂が流れ、その恐怖から逃げたものです。

その後、新規でやってきた工員が脱出する騒ぎもあって、今も続いているようです。

 

 

ホンハイは台湾の会社ですし、iPhoneが品薄になるかもしれないというので、中国国内に留まる話ではなく、中国のゼロコロナは、店舗や工場を出す場所、あるいは投資する場所としては安定感がないことを確定させて、国外企業の中国脱出に拍車がかかりそうです。

といった点で、ホンハイの工員脱出は、今までとは違う意味合いのある騒動でしたが、この報道の中でも説明されているように、第二波の脱走は、待遇に対する不満もありつつ、工場に残っていた工員が感染しているとの噂が流れたのが原因です。第一波の延長。実際に感染が拡大していたわけではないようですが、工場が封鎖され、外出もできず、狭いところに押し込められれば感染拡大するのは必須。

でも、それで退去して脱走を図るって大袈裟すぎだべ。糖尿病の人や70代以上だったらともかく。

ここで押さえておくべきなのは、「新型コロナは怖い」という認識が今も中国では強いことです。だから、中国の国民の多くはここまでゼロコロナ対策を支持してきました。西側諸国では感染が拡大し、人が多数死んでいる。それに対して「中国は世界でもっとも安全、中国共産党バンザイ」として政府を支持。

ウイルスを恐怖するあまりの抵抗であることに鼻白み、これにも私は全然共感できず。この工員たちの理想は、さらに規制策を強化して、新旧ともども工員は連日PCR検査をすることでしょう。そんな人たちに同情なんて少しもねえわ。いつまでもやってろ、ボケ。

また、同じ頃、広東省広州市海珠区のような感染リスクが高いとされる地域での脱走も始まります。住んでいる場所や建物が封鎖されそうになると住民が脱出し、フェンスの破壊も起きてます。封鎖されるだけでなく、貧相な隔離施設に移送されることもあります。

現に食い物さえも手に入りにくく、手に入るとしても高額、店や会社がバタバタと潰れている現実から行動するしかなくなっているだけで、おそらく今もなお大半の国民は新型コロナを怖がっています。これが続く限り、ゼロコロナ対策を転換できない。

 

 

100万人のウイグル人が拘禁されても無関心、漢族が10人死んだら大騒ぎ

 

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ナチスドイツはヒトラーという異常な一個人が生み出したのではなく、ドイツ人総体が生み出したものでした。あるいは今のロシアはプーチンという異常な一個人が生み出したのではなく、ロシア人総体が生み出したものです。中国の厳しいゼロコロナ対策も、中国の国民が望んだところがあります。

ゼロコロナ対策は、習近平の独裁三期目を実現するための方法として利用していると言われていて、事実、党大会以降、規制をゆるめる動きが少しはありました。PCR検査を無料で実施できているのは、検査費用を自治体が負担しているためで、それが財政を逼迫させているというので、検査頻度を落とし、その分、検査を有料にした自治体もありました。また、隔離期間を短くする動きもありました。

しかし、感染者増大によって再度締めつけを強め、ここから反発も強くなっていきます。

今回の白紙革命は、直接には11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチでのビル火災で10人が死亡したことがきっかけです。

 

 

 

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