ドイツのクーデター計画の続報と連邦議会がホロドモールをジェノサイドとして認定した背景—残虐さと狡さはスターリンもプーチンも同じ-(松沢呉一)
クーデターその後
未遂に終わったドイツのクーデター計画の続報を読んでいるのですが、逮捕された25名となお逮捕には至っていない容疑者29名(2名増えたみたい)についての詳細が報じられています(と言っても個人が特定できる人はその一部)。
逮捕者の中には逮捕当日に伝えられていたAfDの元議員である裁判官の他、医師、弁護士、パイロット、実業家など知的階層と見做される社会的地位の高い人々が少なくないとのこと。
しかし、全員が多かれ少なかれ陰謀論の信奉者です。私がずっと批判している「新型コロナのウィルスは中国の研究所から漏れた可能性がある」「新型コロナの対策は過剰である」「ワクチンの副作用は新型コロナよりも危険」といった主張をするだけで陰謀論と決めつけるような「チープな陰謀論のレッテル貼り」ではなく、「新型コロナのウイルスは存在しない」「新型コロナは世界を支配する闇の勢力が企てた計画」「彼らは子どもの血清を得ることで若がえりを図っている」といったレベルの正統派陰謀論です。
彼らはやはりライヒスビュルガー運動でつながっていて、戦後のドイツを否定し、人によってはAfDなどの右翼運動、人によってはQアノン、人によっては水平思考運動に関与(水平思考を除名になったとあるので、水平思考も手に余ったのかも)。
彼らが今回逮捕されなかったとしても、クーデターの実現までは至れなかっただろうというのが大方の見方です。武装部隊が存在していたと言っても、警官や軍人のメンバーが横流したピストルやライフルが十数丁とナイフ等の刃物が見つかっているだけで、たいした武装ではなさそうです。
しかし、3,000人もの捜査員を動員して全国規模で逮捕、家宅捜査を実施したくらいで、当局はこのグループを軽視はしていなくて、議事堂を占拠して首相や国会議員を人質にとる彼らの計画が実施された場合、ライヒスビュルガー運動の支持者(当局のカウントによると2万人以上いるらしい)がどう出るかは予想がつかない。
ロシアとしてはドイツで混乱が起きて欲しいでしょうから、煽るようなことをしていたり、グループ内に工作員を入れて計画をエスカレートさせるくらいのことはしていた可能性があると思いますが、クーデター・グループがロシアとコンタクトをとっていたとの話はたいしたことではなかったのか、慎重を期する内容なので捜査当局が発表していないのか、今のところ詳細は不明。
当局が過剰反応した可能性もゼロではなくて、それを含めて今後も展開を見ていきます。
✳︎2022年12月10日付「SPIEGEL」 独「シュピーゲル」の最新記事(英文)。長いですが、ここまでわかっていることがだいたい書かれています。
ドイツ連邦議会がホロドモールをジェノサイドとして認定
そのドイツについて取り上げようと思いつつ、時間が経ってしまいましたが、12月1日、連邦議会がホロドモールをジェノサイドとして認定しました。
サムネイルに使用されているのはキーウにあるホロドモールの像です。
日本語報道ではウクルインフォルムの日本語版が比較的詳しく、あとはサラリと触れたメディアがいくつかあっただけです。一国の議会がホロドモールをジェノサイドだと認定したからと言って、劇的に何かが変わるわけはなく、日本に及ぶ影響はゼロですから、こんなもんかとは思います。あるいはホロドモール自体がそんなには知られていないので、説明が面倒ってこともあるのかな。
その点、「ビバノン」ではロシアによるウクライナ侵攻のずっと前からホロドモールを取り上げています。実のところ、ホロドモールについては、ドイツ、あるいはEU全体においても、さほど知られていないらしい。今回の戦争の前からとりあげていた「ビバノン」を読んでいる人たちの方がEUの人たちよりも知っている率が高いでしょう。
私がここに着目した最初のきっかけはポグロムでした。ナチスドイツによるユダヤ人やジプシー、障害者、同性愛者のジェノサイドはよく知られていますが、それに比べるとスターリンによる大量虐殺はあまり知られていない。
独ソ戦に勝ったからと言ってソビエトによる数百万人のウクライナ人が犠牲となったホロドモールがなかったかのごとくに扱われているのはあまりに理不尽です。前から言っているように、ハーケンクロイツには敏感に反応する人たちが、槌鎌にはまるで反応しないのはどういうわけか。もしナチスドイツが戦争に勝利していたら、槌鎌を叩いて、ハーケンクロイツを振り回していたのでありましょう。
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