松沢呉一のビバノン・ライフ

道徳の実現のために子どもを利用する人々—道徳の法制化が進む[中]-(松沢呉一)

インドネシアで婚姻外セックスが禁止され、ロシアで同性愛プロパガンダ禁止法の改正案が成立—道徳の法制化が進む[上]」の続きです。この回の補足と追記はこちら

 

 

子どものためにLGBTを規制することを国民の多くが疑っていない

 

vivanon_sentenceロシアの「同性愛プロパガンダ禁止法」は戦争から目を逸らすための陽動作戦であるとの見方もありますが、逆じゃなかろうか。政府やロシア正教原理主義者たちは、戦争に目が向いている今が改正のチャンスだと見たんじゃないですかね。

「同性愛プロパガンダ禁止法」によって、2013年に、子ども向けの「LGBTとトランスジェンダーのプロパガンダ」「小児性愛のプロパガンダ」が禁じられました。LGBTを全面的に禁止にしたいのが本音でしょうが、反対が強いし、国際的に批判されるため、そこまではできない。そこで、この段階では子どもを利用したということだろうと思います。

それまでもロシアのプライドパレードは反対派に妨害され、警察もそちらの味方をして、実質禁止されていたようなものですが、2013年、晴れてプライドパレードは違法とされました。

今回の改正に反対した人たちがそれでもサンクトペテルブルクで抗議行動をやっていたようです。具体的なことを言わなければいいのかもしれないですが、レインボーフラッグを出しているので罰金刑になったかも。

法改正に反対すること自体が違法になる。表現に関する法律を作るとこうなります。

今までは子どもの目や耳に入るような情報がこの法律に抵触したわけですが、今回の改正で、子どもだけでなく、大人しか目にしないところでも同性愛行動や同性愛表現は違法になりました。この改正がなされる前に、ダニャ・ミロキンは女装で罰金になっていて、あれはインターネットに写真を出したからでしょうが、これからは大人しかいない飲み屋やパーティであっても女装は違法かも。

罰則も重くなって、罰金は最大1,000万ルーブルまで引き上げられました。日本円で2,000万円以上。ゲリラでプライドパレードをやろうという気も、こっそりゲイバーをやろうという気もなくなりましょう。

結局のところ、夫婦間で子どもを産むことを目的とした正常位以外の性情報はすべて違法というところまで行き着くことになりかねない。そこまで至ればかえって基準は明確になりますが、そこまで至らないとしたら、誰が何を基準に違法か否かを判断するのか私にはわからない。

しかし、法の曖昧さを指摘するのは虚しい。ロシアのような社会では独裁者が決定できればよく、その代理人たる警察や検察の判断がすべてです。なにしろ、傭兵会社は違法であるにもかかわらず、ワグネル(ワグナー)・グループが堂々と活動し、プリゴジンがその影響力を行使している無法国家です。

✳︎2022年11月25日付「BBC」日本語版 ここに使われている写真のキャプションにサンクトペテルブルクでの抗議行動とあります。それらしき動画もYouTubeにありましたが、何人か連行されたようです。

 

 

「ロシア人にインタビューしてみた」が「同性愛プロパガンダ禁止法」に切り込んだ

 

vivanon_sentenceこの改正案が下院で可決されたことを受けて、「ロシア人にインタビューしてみた」では、モスクワとチュヴァシ共和国で聞いています。

 

 

 

見事なコンストラスト。モスクワでは全員が同性愛プロパガンダ禁止法(の改正)に批判的、懐疑的。「答えられない」とした人も、答えられない理由は「国と考えが違うから」と言っていて、批判的であることは明らかです。

対してチュヴァシ共和国では全員がLGBTに否定的で、「精神異常者」だの「頭がおかしい」だの「キモい」だの「普通じゃない」だのと言ってます。こういう人たちは頭のおかしいプーチンを支持しているのですから、相当に頭がおかしい。

 

 

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