ロシアのウクライナ侵攻についての考え方が民族ラトビア人とロシア系ラトビア人ではまるで違う—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[5] -(松沢呉一)
「ラトビアにおけるロシア系住民の微妙な位置—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[4]」の続きです。
世論調査における民族ラトビア人とロシア系ラトビア人
ロシア系ラトビア人が皆プーチン支持・ウクライナ侵攻支持のはずはなく、民族ラトビア人が皆プーチン反対・ウクライナ侵攻反対ではありません。しかし、両者は、はっきりとこの戦争に対する姿勢が違います。
ラトビアの公共放送LSM-TVは、侵攻からすぐに調査会社に依頼して、世論調査を実行しています。3月10日付のLSM-TVによると、国民の65.4%がウクライナを支持し、8.2%がロシアを支持という結果が出ているのですが、「家庭でラトビア語を話す人」(以降、「ラトビア語話者」)と「家庭でロシア語を話す人」(以降、「ロシア語話者」)とではまるで数字が違います。
左が家庭でラトビア語を話すグループで、右がロシア語を話すグループです。黄色が「ウクライナ支持」、赤が「ロシア支持」、グレーが「どちらも支持しない」(積極的に「支持しない」というより、「どちらでもない」というニュアンスか)、オレンジは「答えられない」(たぶん「無回答」だと思います)。
両者はまるで分布が違う。ラトビア語話者では「ウクライナ支持」が90パーセントで、「ロシア支持」は1%。ロシア語話者では、「ウクライナ支持」が22%で、「ロシア支持」が21%と、両者は拮抗しています。もっとも多いのは「どちらも支持しない」。これが46%もいるのは、ロシア系住民の混乱の数字であり、「今まで信じてきたことへの疑問を表している」と解説されています。
ロシア国内と違って、情報を得られるラトビアでは、キエフを狙っていたことを知って、「南部や東部の住民を助けるため」という名目が嘘だということなって、祖国に絶望した人たちが多かったそうです。これ以降、民間人への攻撃、相次ぐ略奪、核兵器を持ち出してのおどし、ブチャの虐殺などが明らかになるに従って、ロシア支持はさらに減っているはずです。
ともあれ両者はまったく違う考え方をしていることを確認。
巨大なモニュメントが破壊された
5月9日の対独戦勝記念日、例年ロシア系住民はリガのビクトリー公園に建てられたロシア兵の記念碑に集まって献花をする習わしです。ウクライナ戦争を踏まえて、今年は献花をしないように呼びかけがなされていたのですが、一部ロシア系住民が献花をするために集まりました。
これは容認されたのですが、リガ市は翌日には花を撤去。これにロシア系住民が反発して、またも記念碑の前に集まり、プーチン支持の気勢を挙げました。
これに対してリガ市議会は、モニュメントの撤去を決議し、8月22日、79メートルもある記念碑は破壊されました。
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