松沢呉一のビバノン・ライフ

ラトビアにおけるロシア系住民の微妙な位置—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[4] -(松沢呉一)

政府と個人は別とは言い切れないことがある—ロシアを脱出したTVレインがまたも存続の危機[3] 」の続きです。

 

 

ラトビアのロシア語放送は役に立っているのか?

 

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以下は昨日公開されていたラトビア・メディアの記事です。グッドタイミング。

 

2022年12月27日付「LA.LV

 

ラトビアのテレビ局TV24の番組をまとめたみたい。

国外に出ているウクライナ人のネットワークがあって(今回の戦争の前から存在している)、そのラトビア支部である「ラトビア・ウクライナ会議」のヤナ・ストレレッツ代表のインタビューです。

ラトビア語の自動翻訳は精度が低くて、正確には読み取れないのですが、「ラトビアのロシア語放送は役に立っているか」と聞かれて、「ロシア語話者という呼び方をやめよう」と言ってます。

「ロシア語放送があるために、彼らは今もロシアのメディア空間の中にいる。ロシア語放送にラトビアの納税者の金を使うべきではなく、ロシア語放送がなくなれば、彼らだってニュースを知るためにラトビア語を学ぶ」

ざっとそういう内容。

TVレインを名指しはしていないですが、明らかにTVレイン問題を踏まえてます。TVレインは、ウクライナで何が起きているのかを報じていますし、プーチンにも戦争にも批判的なのだから、正確なことをロシア系住民が知る手だてになるように思うじゃないですか。

しかし、彼女はもっと広い視点でこれを話しているのだと思います。私はそう理解できましたし、ラトビアの人たちもそうでしょうが、ラトビアの現実、東ヨーロッパの現実をわかっていないと理解しにくそうです。

解説します。

 

 

ラトビア内ロシア系住民と民族ラトビア人との確執

 

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ジョージア同様、ラトビアでもロシア人受け入れについては国民の中から反対の声が出ています。野党政党の一つも反対。

ラトビアにはロシア系住民が多くいます。もともとロシアの一部ですから当然ではあるのですが、その多くはソ連が崩壊して以降、移住してきた人々です。必ずしもロシアを嫌ったためではなくて、経済的な困窮、混乱のために逃げてきた人もおそらく多い。

現在は国民の4人に 1人がロシア系です(ウクライナ戦争以降の移住者は含まれてません)。ロシアからの移住者の多くは都市部に住んでいるため、首都のリガでは4割以上、2番目に大きい都市であるダウガフピルスでは半数以上がロシア系です。ラトビアの公用語はラトビア語ですが、ロシア系住民の多くはロシア語が母語です。ロシア人にとってはラトビア語を学ばなくても生活が可能なため、ロシアから逃げる先として好まれています。

残りのほとんどを占めるロシア系ではないラトビア人(民族ラトビア人)はロシア系に対する警戒心が強い。とくに今のウクライナを見れば、ロシア語を話すロシア系住民の中から独立を宣言するのがでてきて、「ネオナチ」から彼らを守るためにロシア軍が侵攻してくることを恐れないではいられない。

 

 

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