松沢呉一のビバノン・ライフ

「どうして女の子だけ?」という当然の疑問—Colabo✖️暇空茜[傍流編26]-(松沢呉一)

仁藤夢乃の頭ん中にはフェミニズムと無関係な差別的発想が詰まっている—Colabo×暇空茜[傍流編25]」の続きです。

 

 

どうして女の子だけ?

 

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前回、取り上げようとしていたのに忘れてました。

若者メンタルサポート協会小杉沙織さんのチャンネルより。

 

 

本当にその通り。

Colaboの活動について、不正会計疑惑については批判している人たちの中でも、「その活動自体は素晴らしい」としている人たちがけっこういますが、よーく考えてみましょう。男子も親の虐待を受けるし、学校でのいじめも受けます。

若者メンタルサボート協会の場合で、2割から3割が男子。無視していい割合ではないですし、その上、男は相談がしにくいのです。

社会に浸透している「女子供バイアス」によって、女が弱さを示すと、多くの人は「助けなきゃ」と思います。女は無能で無力なので、一人で生きていくことができないと信じて疑わない人たちは税金を使ってサポートする。対して男は能力があって、力もあることが当然とされ、弱さを見せると「情けない」「男なのに」と言われて弾かれますから、相談もできない。

若者メンタルサボート協会の相談者の2割から3割が男子だとすると、相談までは至らずに悩みを抱えた若者の男女比は1対1に限りなく近く、相談できず、周りの助けも得にくいため、男子の方が深刻とも言えます。

この解消は容易ではないですが、相談できる男子については解消し得ます。これをColaboなどの団体は無視しています。「若年被害女性等支援事業」自体を問い直すべきだろうと思います。

東京都は児童相談所の業務の一部を民間に委託すると発表していますが、男子を外すことに疑問を抱かない差別的団体は排除すべきです。

 

 

男は死ねばいいってか

 

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男は相談ができず、悩みを抱え込むため、最後は自殺するしかなくなる。この現実は数字に出ていてます。

ほとんどすべての国で女より男の自殺が圧倒的に多い。日本でも2対1です。この理由はさまざま論じられていますが、これと対になる数字を無視した推論は無効です。対になる数字というのは、自殺未遂は女の方が多い現実です。

これが米国であれば、「自殺の方法は銃が多く、銃は男の方が所有している。銃による自殺は成功率が高いために、男の自殺が増え、他の方法を選択する女は未遂が増える」と言えますが、銃による自殺がほとんどない日本でもそうなのです。

にもかかわらず、コロナ禍で女の自殺数がいくらか増えたことに着目して、「女の自殺が増えている」とメディアが報じ、フェミニストと名乗る大学教員が「女は不安定な不正規雇用が多いために解雇された」といった薄い解説をして、その対策をとるように求めていて、「またかよ」と思いました。

その可能性もゼロではないでしょうが、「コロナ禍で変質した安全装置—サイレント・エピデミック[15]」で説明したように、他に理由は挙げられます。

飲み会、お茶会、女子会といった集まりで、悩みを告白して支え合う習慣があったのがコロナで消えたとか、自殺未遂の発見が遅れがちになって死に至る率が高くまったとか。しかし、これらの説は「女は虐げられている」という主張につながらないので却下したのでしょう。「事実はどうなのか」に興味がないフェミニストにはうんざりです。

これがサイレント・エピデミックです。数が多くても男の自殺は無視され、女の自殺ばかりがクローズアップされるため、男が女の倍、自殺している事実が見えなくされます。コロナ禍で女の自殺がいくらか増えたところで差はほとんど縮まってません。

✳︎警察庁「令和4年中における自殺の状況」 昨年の自殺数は21,584、うち男は14,543、女は7,041。

 

 

中国ではなぜ女の自殺が多いのか

 

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自殺に見られる男女比の謎については「サイレント・エピデミック」シリーズで詳しく論じているので、ここでは繰り返さないですが、一点、まとめておこうとして、忘れていたことがありますので、ここでやっておきます。

上に「ほとんどすべての国で女より男の自殺が圧倒的に多い」と書きましたが、私の知る限り、一つだけ例外があります。中国です。若干女が多い。

そもそも中国のデータを信用できるのかって疑問がありましょう。自殺が多いと責任問題になるので、各地域の責任者が数字を減らし、そういった操作をしているうちに女が多くなってしまったとか、「うちの管轄下では女の自殺が多い」として対策費ゲットしようとしたとか。

2017年10月1日付「捜狐」に、自殺研究をやっている吴飞・北京大学教授のインタビューが出ていて、中国では自殺は死因としてカウントされないと言ってます。薬物で自殺した場合は「薬物中毒」が死因であり、飛び降り自殺であれば「全身打撲と内臓破裂」といった死因になって、自殺だとは改めてカルテに記載されないようです。

そんな中でどうやって調べたのかわからないですが、中国での自殺者は10万人当たり23人とのこと。これが事実だとすると、世界8位くらい。日本も自殺が多いと言われますが、20人を切ってます。中国は人口が多いですから、世界でもっとも多くの自殺者を出している国です。

なぜ自殺が多いのか、なぜ女の方が自殺が多いのかの理由については、農村部でのコミュニティが崩壊したことが挙げられています。農村部の方が自殺が多く、今までセイフティネットとして機能してきた隣近所の人々が散り散りとなり、子どもらは都市に出て、夫は出稼ぎに行く。

しかし、都市部でも自殺は多いし、男女比も変わらない。そのことから考えて、別の要因がありそうです。

✳︎2017年10月1日付「捜狐

 

 

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