ルカシェンコの病気はベラルーシに何をもたらすか—独裁終焉の可能性を探る-(松沢呉一)
「ルカシェンコ政権は近々終わる/ロシア将校がバタバタ戦死している/飛行機工場へのゲリラ戦は失敗した模様/ロシアの山火事はさらに拡大/ほか」の続きですが、あちらに書いたことは浅すぎたと反省しています。
ルカシェンコをめぐる解釈さまざま
G7も気になるのですが、そっちは一般の報道にお任せてして、「あれってどうなった?」という話題を取り上げておきます。
「ベラルーシのルカシェンコ大統領はその後どうなった?」です。答えは「どうもなってない」です。病人然としたあの映像が公開されて以降、続報はありません。
しかし、あの映像を出したことの解釈がいろいろ出ていて面白かったりします。
2023年5月20日付「LITHUANIA POSTS」は、隣接するリトアニアのメディアだけに「なるほどな」と思わせる内容でした。
重要なモスクワの戦勝記念日のイベントを途中で投げ出す醜態を見せてしまったため、完治するまで静養していると、あらぬ噂が流れてしまいます。また、独裁者として重要課題のすべてを決定しているルカシェンコは、何もせずにジッとしていると不安になるため、体調が悪いのに姿を現したというのがその読みです。
その結果、いよいよ「ルカシェンコはもう長くない」という噂が拡散したわけですが、袖から包帯を出していたのはわざとだと言います。考えてみれば、声が涸れていることは、音声を公開しなければバレなかったことですから、体調が悪いことを知らせようとしたと考えた方がいいのかもしれない。
なぜそうしたのかについては記事から読み取れなかったのですが、ひとつはプーチンへのメッセージだろうと推測できます。「ほら、こんなにひどいんですよ。途中で切り上げたのはやむを得ないでしょ」と。もしここで元気そうな姿を見せると、「なんだよ」とプーチンやロシア首脳は怒るでしょう。ロシア国民やベラルーシ国民でも怒るのはいそうです。
もうひとつは「こんな状態でもワシは国のために仕事をしているのだ」と国内向けのメッセージです。病状がひどいほど懸命に見えます。
しかし、あえて重病を演じたのでなく、そのままを晒したということであって、重病であることは事実ではなかろうか。
もしルカシェンコが退陣したら、何が起きるのか
当然のことながら、「もしルカシェンコが退陣したら、何が起きるのか」という予想を展開している記事も出ています。
その中で2023年5月21日付「POLITICO」は、具体的な根拠を挙げて、「当面、何も変わらない」という結論を提示しています。セルゲイ・クズネツォフというジャーナリストが執筆していて、ベラルーシに関する多数の文章を書いているだけに説得力がありました。
ゼレンシキー大統領顧問ミハイロ・ポドリャク(Михайло Михайлович Подоляк)が語ったところによると、ベラルーシ軍・治安機関の上層部の多くの高官は「完全にモスクワ志向」とのこと。
武器を持つ組織に、プーチンに批判的、戦争に批判的な層が一定いれば、ルカシェンコの病気に乗じてクーデターを起こすところですが、それはなさそうです。もしそんな人物がいたとしたら、とっくに殺されているか、刑務所に入れられていましょう。
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